油絵の技法 その1 平塗り

広い面積を塗る平塗りは、わずかに異なる色を2度塗りしますと、厚みにある色面が得られます。 美しく色をのせていく方法として 溶き油で絵具をゆるめて流動性を持たせて、刷毛(やわらかい毛)で塗り広げていく、そして 画面全体が均質になるよう何度も刷毛を返しながら塗り進めていきます。 若干キャンバスの目が残りますが、このわずかな起伏が後の塗り重ねに効果を発揮します。

堅めの刷毛(豚毛)で塗りこむ方法もあります。 刷毛を画面に対して立てて、絵具をキャンバスにすり込むように塗っていきます。 円を描くように塗りこむと模様が出て、画面に重厚さが出ます。 厚塗りができるのも油絵の特徴です。 たっぷり多めの絵具をパレット上で調合して、キャンバスにやや筆を寝かせて、絵具を盛り付ける ようにのせます。

制作途中で使われる平塗りの画法として かすれ があります。 硬い刷毛で溶き油を使わないで刷毛を寝かせて、縦か横に引っ張るような感じで描きますと かすれた感じが出ます。 板などを描く時にかすれた感じを出すときに使用されます。 刷毛の代わりにナイフを使ってかすれた感じを出す場合もあります。 下の絵具が乾かないうちに、絵具をのせて縦や横に引っ張ると油絵独特のねばりで、さざなみなどが 表現できます。

油絵の技法 その2 ぼかしとスフマート

ぼかしは平塗りから徐徐に色を薄く伸ばしていく技法で、絵具の柔らかい内に、刷毛や布 指などを使って、色を混ぜていきます。 このぼかしは大きな空間を表現するのに向いています。 この技法は製作途中でよく使われます。 空を描く時に、下に塗った色が乾かないうちに雲の白色を多めにのせます。そして指で 円を描くようにぼかしていく方法です。 わずかなムラが雲の形にボリュームを与えてくれます。 ファンという筆を使う場合もあります。 これを使ってすこしずつ2色の色が混じりあうようにぼかしていきます。 水面や雨上がりの路面の写り込みを描く時に重宝します。 たたきぼかし、という技法もあります。 絵具をたんぽや穂先を切った筆などにつけて、キャンバスにたたきつけながら霧を吹きつけた ような効果が得られます。

ぼかしはつまりは絵具がぬれている間に別な絵具を塗って相互が干渉しあって中間色として 混じりあった状態をいいます。 水彩画などでも広く使われている方法ですが、水彩の場合は水をたっぷり使って、色そのものを ぼかしていきます。

スフマート スフマートはレオナルドダビンチが開発したと言われていますが、別に特別な秘技というほどの ものではありません。 要は、ぼかしによる空気遠近法ということです。 輪郭線をなだらかにぼかして、明暗によって遠近感をつける、という方法です。 中国や日本の水墨の山水画でもよく使われています。

油絵の技法 その3 スカンブリング

擦りぼかしといいます。
隙間から下地の色が見えるように不規則な模様を描く技法です。
不透明、又は半透明な絵具を乾いた絵具の層の上にぼかして塗り、上層と下層の色調が
響きあう効果を出すテクニックです。
下層の絵具を上手く透かして見せるためには乾いた筆の筆先に、ほんの少し絵具を取り、
筆跡をかすれさせ、やや粗いタッチで不規則に筆を動かすことがコツです。
下地の絵具が乾いている上に施すので乾燥の速いアクリル画に向いた描き方です。
地色と正反対の色、同系色の色で描いてもよく、好みと狙った効果により選ぶことができます。
例えば、濃い青に薄い明るいブルー、紫を加えると色調が微妙となり発色が深まります。
注意することは土台となる色を次にスカンブリングする時にすべて消してしまわないこと。
絵具を塗るときに硬めの筆、布、指などで軽いタッチで擦る(こする)ようにします。
ドライブラシと同様、絵具を薄めて描くこともでき、水分を布や紙に吸わせてから行うと
効果的です。
絵全体がバランスがよくないときにスカンブリングで整えると、落ち着いた絵の雰囲気を
出せます。
又、モチーフの色が強すぎたり、背景から浮いて見られる場合には軽くスカンブリングを
施すと色調がぼやけてほどよく収まります。
色のコントラストを弱めたいとき、色合いを和やかにしたいときなどに便利です。

油絵の技法 その4 クロスハッチング

ハッチングとは絵画や製図で使われる描画法の1つで複数の平行線を描きこむことです。
図面などで、この場所ですよ、と言う風に示す斜めに線をたくさん引いて表す描き方です。
絵画技法としては細かく(あるいは粗く)平行線を引いていくことで絵に重量感を与える技法として
知られています。
又各々異なる方向に向いて描かれたハッチングを重ねて線を交差させて描く方法をクロスハッチング
といいます。
絵画では細い平行線を交差(クロスハッチング)させ、その多少によって濃淡を作っていく技法です。
線影ともいいます。
細い筆と白い絵具を用いてハイライト部分の量感を作るときにも使用されます。
言葉だけではよく分からないかも知れませんが、鉛筆でクロスハッチングの練習をすれば、その
効果が実感できるかもしれません。
白い画用紙(何でもよい)に球形を描きましょう、
光を1方向に定めて、その球の陰影をクロスハッチングで描き分ける方法です。
影の濃いところは細い平行線を細かくたくさん引いていきます。右斜めに引いたら、今度は左斜めに
引きます。陰の薄いところはクロスハッチングの平行線の幅を広くしましょう。
濃いところを描く時に鉛筆の筆圧を上げないように、筆圧はすべて同じ程度にしましょう。
最初は線ががたがたで美しくありませんが、やがてやっている内に真っ直ぐなきれいな線が引けれ
ようになります。
しかしハッチングに気を取られて全体の意識が薄くなってはいけません。
クロスハッチングは単に陰影を作る技法としての紹介です。こだわる必要はありません。

油絵の技法 その5 マスキング

絵画の中では市販されているマスキングテープを使って、長い直線(曲線でも)を曲がらないで描きたい
ときや、シャープなエッジが欲しいときに使われます。
筆では描けない狭い直線を描く時には便利な技法です。
例えば、格子状の形が描きたいときは、下の地色を塗って、乾いてから任意の幅のテープで格子状に
一定の間隔で貼り付けます。
この状態でこの上に違う色を塗り重ねます。
そしてテープを剥がしますと格子状の模様が現れます。
建物や構造物の絵で強い調子の直線が欲しい場合もその直線部に所定の幅でテープを張り、その上から
色を塗り重ねて、テープを剥がせばシャープな線が得られます。
バイオリンやチェロなどの弦を描く時はこの方法がよく使われます。
しかし線が強すぎる場合は面相筆などで軽くその上からなぞりますと柔らかい感じとなります。
テープではなくマスキング液を使う方法もあります。
塗る、塗らない部分を曲線で分けたい、より細い線が欲しい場合に使われます。
マスキング液は合成ゴムをアンモニアで溶かした液体です。
乾くとゴム状になって後から簡単に剥がすことができます。
この技法は1920年ごろから使われるようになったと、との記録があります。
当初は図案や装丁などのグラフィックアートや工業製品のロゴマークを入れる塗装の方法として
使われていました。
現代絵画でも、ごく一般的な画法として普及しています。

油絵の技法 その6 デカルコマニー

デカルコマニーとは合わせ絵のことです。フランス語で転写画の意味です。
紙に絵具を塗り付け、それを2つ折にしたり、別の紙に押し付けたりすることで、塗りつけた
絵具を絵具を転写する絵画技法です。
折り目を境に左右対称の絵柄が描けます。
デカルコマニーでは使用する紙や絵具などの素材特性が大きく表現効果に関わります。
紙には表面の平滑性や吸収性などが異なった様々な種類があり、それぞれ特徴のある転写効果を
出しますが、基本的には表面が比較的滑らかなケント紙やアート紙などが適しています。
元々は、紙に描いた絵を陶器やガラスに転写し、絵付けするための技法でしたが、画家の
オスカードミングスという人がこの技法を絵画作品に取り入れました。
この画法は制作者の意図とは関係なく偶発性に委ねられることが特徴です。
その偶発性や無意識により現れたイメージは見る人の想像力を駆り立てます。
抽象画の世界で使われる技法です。
画家のオスカードミンクスは1935年ころから始めたシュルレアリズム絵画の技法の1つ
としてこの技法を取り入れた。岩や、花、水、雪、溶岩などを思わせるイメージが現れ
その後のシュルレアリストたちによって盛んに使われるようになりました。
おもしろい使い方では、生き物は大体、左右対称です。例えば蝶も左右対称であることから
画用紙半分に絵具で模様を描き、真ん中を折って、しっかりこすります。
それを開きますときれいな蝶の図柄ができます。

油絵の技法 その7 フロッタージュ

木の枝とか、石とか、コインなどの表面が凹凸のある物の上に紙を置いて、上から鉛筆
などでこすると、その凸凹が模様となって現れます。
この模様によって描かれた作品をフロッタージュといいます。
使用する紙は比較的薄くて柔軟性のあるものがよく、画用紙などの厚みのあるものは
写しにくいので適さない。
古くから東洋では拓本という技法がありました。
乾拓と湿拓の2種類あります。
乾拓はフロッタージュと同じ原理で、和紙の上に擦りだし用の固形の墨でこすって凸凹を
写し取ります。
湿拓は水分を含ませた和紙の上からタンポでたたき、1度凸凹を浮かび上がらせてから
絵具の付いたタンポで凸面を絵具で彩色します。
魚拓がこれに似ています。
フロッタージュはできた模様は偶発性によるものです。
そこの現れるイメージは見る者の想像力を拡大させる効果があります。
シュルリアリズムのMエルンストが創始者と言われています。
パステル、クレヨン、鉛筆、色鉛筆などを使って凸凹をこすり、写し取ったり、紙を回転
させたり、移動させたりしてして写し取ると、思いもよらないような綺麗な模様が得られます。
マックスエルンストは1900年代のドイツの画家です。シュルレアリズム(超現実主義)の
代表的な画家です。フロッタージュ以外にもコラージュ、デコルコマニーなどの技法を考案
しています。

油絵の技法 その8 コラージュ

コラージュとは貼り付けの意味です(フランス語)
絵具を塗る代わりに色の付いた紙を貼って絵を作ることをパピエコレといいます。
貼ったり、剥がしたり、移動させたり、が容易のため、構図の展開を空想したり、
エスキース作りに応用できます。
作品の構図を決めるときにも使います。
切り立った絵のパーツを紙の上で移動させたり、回転っせたりして最適な配置を考えるときに
よく使われます(エスキース)。
抽象画の世界でよく使われます。
天地や方向や遠近にこだわらず、自由に配置を変えていきます。
色と形のバランスやリズムに思考に専念できます。
絵画におけるコラージュはキュビズム時代にパブロピカソ、ジェルジュブラックらが始めた。
前記のパピエコレに端を発し、主観的構成を持たない、意想外の組み合わせとしてのコラージュ
は1919年Mエルンストが発案した。
主に新聞、布切れ、針金、ビーズなどの絵具以外の物を色々組み合わせて画面に貼り付ける
ことにより特殊効果を生み出すことができます。
現代でも様々な方向で工夫され発展して使われています。
フローラルコラージュという技法があります。
あらゆる植物の枝や葉っぱなどの植物素材を使って紙やキャンバスに張り付け、アート性を
追求する造形の1つの部門となっています。
デジタルコラージュという技法もあります。
パソコンのモニター上で写真素材を切り取ったり、縮小、拡大したりして、それを画面上で
貼り付けていき、イメージ作品を作る技法です。

油絵の技法 その9 ドリッピング

吹流しの意味です。
絵具を画用紙にたらして、ストローや直接息で吹くと美しい線の模様ができます。
これをドリッピングといいます。
パレットに載せた絵具を筆の水で溶いて、ぽたぽた落ちるくらいから、それよりもっと薄くてもよい、
強く吹きたいなら濃い目に、ゆっくり吹き流したいなら薄めにする。
たらした絵具の真上からぷっと吹けば花のように散り、追いかけるように吹くとおもしろい図案が
できます。
画家のジャクソンポロックは床に広げた支持体に筆やスティックに付着させた液状の顔料を飛散させて
絵を描きました。
この技法通常な絵画のように筆と支持体とが直接触れ合うことはなく、手首のスナップや腕のスイング
を動かせ、顔料が空中に放たれるように支持体に定着します。
顔料のはね散らし、滴たらせ、あるいは流し込む、ということでドリッピング又はポーリングとも
いいます。
ジャクソンポロックはこの技法に際して、エナメルやアルミニューム塗料などの商業用の塗料も使い
絵具の粘性などの各顔料の特性を意識して活用した。
ドリッピング技法は偶然を使用した手法なので、筆で描く手法と違って誰がやってもそこそこに
支持体に表現できる。
かなり乱暴ですが、小学生の作品だって物理的な表面と奥行きの不可思議はそこそこ生み出すことは
できる。
ポロックの絵画は表層的な抽象表現主義を標榜してアメリカの抽象画の文脈に収まっている作品である。
小学生の限らず、他の画家が絶対真似できない境地の画法である。

油絵の技法 その10 ドライブラシ

ドライブラシとは絵具をそのままか、硬めに溶いたものを筆につけ、キャンバスに塗ったり、
こすりつけたりすることによって、かすれの効果を得る方法。
普段、絵を描く時は常に絵具を十分含ませて描きますが、一旦筆に含ませた絵具をパレットや
紙の上でほとんど拭き取ってしまい、筆に残った生乾きの絵具をこすりつけるように描くのが
ドライブラシです。
絵具が筆に十分付いていませんから、その状態で描くと筆が乾き、線がかすれたようになります。
わざとこういう効果を狙ってデッサンのようなタッチを生み出す技法です。
又、不均衡に塗った乾き気味の絵具の隙間から下層をまばらに見せる技法とも言えます。
方法も色々ありますが、乾いた硬めの筆に溶き油をほとんど加えない絵具を取り、軽く布で
ぬぐってから、乾いた層の上を軽くこするように塗ります。筋状の跡を残すには、力を抜いて
筆の下方を持ち、親指で毛を押さえるようにするとうまくできます。
この独特な技法のドライブラシはアメリカのアンドリューワイエスによって考案され、
他にもEシーレも多用していますが、ワイエスのそれはマイクロハッチングのような繊細で
緻密です。
日本国内にもワイエスを尊敬する画家が多くいて、たくさんの美術館がワイエスの作品を収蔵
しています。
ワイエスはアメリカの勲章をほとんど授与されているのでは、と思われるくらいの巨匠です。

油絵の技法 その11 アラプリマ

アラプリマはイタリア語です。
あらかじめ作られた下地の上に透明な絵具を何層も塗り重ねて仕上げていく古典的な、
伝統的な方法と異なり、油絵具を地塗りなしに直接画面に塗りこんでいく方法をアラプリマと
言います。
画家が自由に色を画面に置いていく方法で筆のタッチや絵具の盛り上がりなどを画面効果として
生かす方法です。
絵画に自然らしさを求めた印象派の画家が採用した19世紀後半から筆も柔らかいものから
硬い豚毛の太筆が使用されるようになった。
1983年から1994年にかけてのアメリカBBSテレビの番組ポブの絵画教室は稀有な
長寿番組であった。このポブ(ポブロス)は古典的なアラプリマ画法を改良を重ねて、
ポブロス画法という画法を考案した。
未乾燥の塗膜に描写する方法やぼかし込みの多用、油分の多い絵具を下塗りすることによって
短時間に仕上げることができるようにした。
筆やナイフの特徴的な使用により今まで描いたことがない人でも油絵が描けるようにした
ポブロスの功績は大きい。
ポブの絵画教室は日本でも1990年後半からNHK-BSで放送され人気を集めた。他にも
メキシコ、韓国、台湾、イギリス、ドイツ、オランダ、トルコのテレビでも放送された。
現在普及しているアクリル絵具のジェッソを下塗りに使った方法はロスの考案である。

油絵の技法 その12 着色グラウンド タッピング インパスト

着色グラウンド
キャンバスに下地の色を塗って、下地の色を残しながら描く技法。
タッピング
スポンジや筆以外の物に絵具を付けてタップしながら描く方法。
又は、絵具をたくさん作り、筆に油を少量付けて、叩いて、ぼかしを作る技法。
部分的にタッピングして複雑な効果をねらいます。
インパスト
厚塗りのことです。絵具を油で薄めないで、厚く盛り上げるように塗る方法です。
力強くはっきりした色が出ます。
油絵の画法の中では代表的な技法です。
厚塗りですが、筆で描く方法とナイフで描く方法とがあります。印象がかなり異なります。
14-15世紀の油絵は薄塗りで色を重ねていく技法が中心であった。
19世紀頃から絵具のチューブが商品化して色数が増加して、厚塗りが積極的に行われるように
なった。
グルーズ(薄塗り)やスタンブル(ぼかし)に対する言葉である。
インパストの効果として、タッチの凸凹が浮き上がり、レリーフ状の効果を出す。
タッチの流れが画面の構成や空間をイメージさせる。
ゴッホのひまわりのある静物は樹脂の多いとき油を使い、粘りの強いタッチで描いている。
インパストの問題点は亀裂と皺が出易いことである。
揮発性油、シッカチフの多用、未乾燥下での重ね描きはしないことが必要です。

油絵の技法 その13 グレージング(グレーズ)

一種のボカシ画法です。
油絵具の透明感を生かした技法で、透明水彩の色作りと同じです。
色相の異なる色をグレーズすれば混色と同じように色味が変わります。
黄色に青をかければ黄緑になる。
類似色をグレーズすれば色が深くなる。
オレンジの上に赤であれば鮮やかな深紅色になります。
下の色を透けさせて視覚的に混色するわけですから、後からの色はごく薄くして
透明度を高くしておきます。
下の色が乾いてから塗ることが一番のポイントです。
注意しなくてはならないことは、
グレーズの色面をマチエールの異なる画面上のポイントとして残したい場合を除いて
グレーズした部分をそのままにしておかないことです。
周りの絵具との境目を軟毛の筆で馴染ませたり部分的に描き込んで仕上げることが
必要です。
進め方のポイントはどんな色調に仕上げるか、完成の色のイメージをあらかじめ持つ
ことが必要です。
グレーズを繰り返せば色調は濃くなっていくわけですから、鮮やかに濃くしたいのか、
渋く濃くしたいのか、下の画面の色味も違ってくるし、グレーズする絵具の色も違います。
特に明るい部分はグレーズで明るめにしておいて、最終的にグレーズで明暗のバランスを
とっていくことがポイントです。

油絵の技法 その14 点描(ドライペイント)

絵具を細目の筆先に盛り付けて塗るというよりは置く感じで厚めに載せます。
絵具は混色した後、重なった顔料同士が光を奪い合い極端に明るさを失ってしまうことから、
色を混ぜずに画面に並べ、見る人の網膜で混色するように考えられた技法です。
日本で最初にこの技法を取り入れた画家は岡鹿之助です。
鹿之助は自分の絵のマチエールが西洋絵画のマチエールに比べると劣ることに悩み、試行錯誤
の結果、到達したのが、彼の画風を特徴づける点描画法であった。
西洋近代絵画史において、点描画法を用いる代表的な画家はジェルジェスーラであるが、
当時の鹿之助はそのころまで無名であったスーラの作品は知らなかった。
スーラの点描はキャンバス上に並置された異なった色の2つの点が見る人の網膜上で混合して
別な色を生み出す、という視覚混合の理論を応用したものであった。のに対して、
鹿之助の点描はむしろ同系色の点を並置することによって、堅固なマチエールを達成しようと
するものである。
鹿之助はこの技法を用いて静けさに満ちた幻想的な風景画(雪景色が多い)を多く残した。
岡鹿之助は1898年生まれ、1919年東京美術学校西洋画科入学、
1964年芸術院会員、1972年文化勲章授与、1978年没 享年79歳。

油絵の技法 その14 点描2

点描は1880年代半ばころ、フランスのスーラによって確立されています。
点描はファンゴッホをはじめ多くの画家たちに影響を与え、やがて抽象絵画への流れも
出来上がっていきました。
モネやシスレー、ピサロら印象派の画家たちは移り変わる自然の様子を細いタッチで
捉えていく等触分割を特徴としました。
そこには混色しない純粋な色を使うことで、キャンバスをより鮮やかに見せるテクニック
がありました。
1886年の第8回印象派展でスーラとシニャックは新印象派と名付けられました。
当時最新の視覚と色彩の理論を取り入れたスーラは純粋な色の点をキャンバスに置いていく
ことによって澄んだ色彩と光の表現を手に入れました。
シニャックは若くして夭折したスーラに代わって新印象派の理論化に努め、世代を超えて
多くの画家たちに影響を与えました。
2人にとって点描は調和を実現する技法でした。
1886年オランダからパリにやってきたファンゴッホはそこでスーラやシニャックの
点描作品を目にしました。
彼は点で描くそのものよりも、そこで用いられた補色の効果に魅了されました。
そうした色彩の力を最大限に活かす方法として、ゴッホは独自に点描技法を生み出して
いきました。
その後、点描はフランスからヨーロッパ全土に伝播していきました。
ベルギーやオランダではファンレイセルベルヘ、バンドベルドトーロップが点描を取り入れ
ました。
三原色と黒い線による抽象絵画で知られるモンドリアン。
彼もまた、1900年代初めにトーロップとの交流を通じて新印象派の理論に触れています。
それがきっかけとなって色彩の純粋性を追求することになった。

油絵の技法 その14 点描3

現在、日本で活躍する点描画家の1人を紹介します。
日展評議員、一水会運営委員 鈴木順一(72)さんです。
国内で点描を用いる画家は多くはないが、鈴木さんは点描一筋。
1961年の一水会展の初入選作品は半点描といえる作品で、逆光の波のきらめきや
魚を入れる籠の表現に点描風のタッチを取り入れています。
その後、シニャックの色彩、光学理論の書籍や画集を取り寄せ、本格的に挑戦。
1973年からは芸術院会員の高田誠さん(1913-92)に師事。
1986年に日展特選。
50年以上に亘り、主に自宅近くの愛知県師崎や豊浜などの漁港や海の風景を点描で
描いてきました。
鈴木さんの描き方は最初は粗く、だんだん細かく。3回ほど下地を塗った後、まず輪郭を
取るように点を置く、さらに画面全体に点を加えていく。
何千回、何万回と気の遠くなるような作業が続く。
点描というと、点を置くという動作に目が行きがちだが、ポイントは色にある。
絵具は混ぜると色が濁る、点描は混色しないで、原色を押し付けるように置いていく。
絵具はチューブから出したほぼそのままの状態。
色ごとに筆も替える。100号以上になると細い筆を40-50本使うという。
色は全体でも基本的に5-6色しか使っていない、そうすることで絵全体に光が溶け込む
感じになる。
作品は色とりどりに見えるが、網膜の中で色が混じりあって効果を生み出している。
と、解説している。

油絵の技法 その15 スグラックフィート トッキング テクスチャー

スグラックフィート
半乾きの油絵具の上から筆の反対側の柄の部分を持って、絵具をこそぎ落とす方法。
トッキング
半乾きの油絵具の上に新聞紙をのせて余分な絵具を落とす方法。
テクスチャー
主に下塗りの段階で使われる技法で、画面の質感のこと。
絵具の中に貝の粉や、砂などを混ぜて描くこともテクスチャーである。
一般的な質感とは、金属質、ガラス質、布や紙質などの言い方もできる。
いわゆる、物の表面の質感、手触りなどを示す概念である。
本来は織物の質感を表す言葉です。
油絵では絵を描くときにキャンバスにあらかじめ下塗りの色を塗っておくことがあります。
これを地塗りとか下塗りといいます。
この下塗りの効果は絵を描く上で色々な目的がありますが、その上に載せられる絵具の発色
をよくしたり、色々なマチエール(絵肌、タッチ)やここでいうテクスチャー(質感)を
楽しんだり、色合いの奥深さを出したい、という効果が得られます。これが下塗りの目的です。
マチエールとテクスチャーの区分は難しいですが、マチエールでは絵具の筆やナイフによる
痕跡、キャンバスの布目の凸凹のことを言いますが、これにテクスチャーの質感を含めて
マチエールと言った方が分かりやすい。

油絵の技法 その16 ウエットインウエット

絵具が乾く前に、つまり濡れている状態で塗り重ねる技法をウエットインウエットと言います。
これは絵具の層と層に隔絶せづに1体化した構造断面となるため、塗膜形成機構は安定に保たれ
ます。
この技法はすばやく行わなければならず、漫然と塗り重ねを続けていると表面と内面の乾燥機構
にひづみが生じることになります。
下の絵具が乾いてから塗り重ねるのはウエットオンドライです。
こちらは溶き油の配合や塗り重ねる絵具層の厚さによって重ねるベストタイミングは変化します。
また堅牢性の程度にも影響します。
油絵の他、水彩やアクリルなどで、最初の絵具の上に同色又は別の色の絵具を加えると両者が
自然と混じりあい、特に水彩ではウオッシュの濡れ具合や重ねる絵具の色合いを試してみて
コントロールすることで複雑なにじみ効果が得られる。
日本画のたらし込みや、水墨画の破墨も同様な技法です。
この技法はボブロス画法とも言われています。
1900年代中頃以降にアメリカのボブロスという画家が考案しました。
しかしこの画法の基礎は中性からすでにあり、ボブロスはこの画法をより発展させて独自の
画法を編み出しました。
ようはこれもにじみやぼかしの技法です。
乾いてない絵具の層の上に別の層の色を塗り重ねると伸びやかで自然な色の融合が見られます。
下層の色は独創性を保ちながらも新たな色の深みや新鮮さを与えます。
彫刻的な表現や動きを出したいときに使用します。

油絵の技法 その17 グリザイユとカマイユ

グリザイユは白黒の明暗で描く方法です。
このまま作品とするより油絵具で彩色するための下塗りとして使います。
一般的な色はシルバーホワイトとピーチブラックにより明暗を作ります。
一方カマイユは褐色の明暗で描く方法です。
これもこのまま作品とするより、油絵具で彩色するための下塗りとして使うと効果的です。
一般的な色はシルバーホワイトとイエローオーカーとバーントシェンナにより明暗を
作ります。
いずれの技法もモノクロやセピアの写真のようにモノトーンの画面が作れます。
油絵の下層描きにこの技法を応用すると、フォルムと色彩に分業された画面構築をすることができます。
つまりグリザイユやカマイユで光と形を表現して、その後、着彩して色彩を表現します。
形象と色彩を一度に表現するのは難しいものですが、この技法を使えば、まず色彩に
とらわれず、描きこんだ後に今度は色に集中して描くことができます。
下層のトーンが上層の色彩に微妙な変化を与えますので、混色をあまりしなくても
複雑なニュアンスを生み出すことができます。
色の表現に悩んでいる人にはおすすめです。
カマイユは有色の下地の上に単色の明暗の調子だけで描いた絵です。イタリア語のカメオと同じ語源を持ち、カマイユは単色画の総称です。
グリザイユもカマイユの一種と言われています。

油絵の技法 その18 パティック

パティックとはろうけつ染めのことです。布にろうで模様を描き、染めるとろうが乗っているところはろうで染料が乗らず、染め残ります。
染色の工程を何回も行い、複雑な模様を作っていくのがパティックです。
一般的なパティックは幾何学模様や同じ模様が幾重にも重なるデザインです。
最近では絵画技法を取り入れた鮮やかな花や鳥をデザイン化したパティックもあります。
又逆に、絵画技法の1つとしてパティックの制作工程を絵を描く工程に取り入れることもあります。

パティックの本場はインドネシアのジャワやソロです。
この地域の伝統文化、伝統芸術として長年にわたり育まれてきました。
本場ではありませんがバリ島でも作られています。
バリ島はイカット(絣 かすり)やソンケット、グリンジンといった布が使われ、カランガッサム県のシンデメンというところで入手できます。
グリンジンはダブルイカットといった特殊な織物で世界でもインド、日本(大島紬)とバリ島しか作られていません。
バリ島に観光に行くと絵画技法を使った鮮やかなパティック風のニセ物が横行を目にします。
パティックのデザインを印刷した布をパティックとして売っています。
印刷で作った布はパティックではなく単なるパティックデザインのプリント生地です。
見分け方は裏を見ればすぐに分かります。
本物のパティックは染色なので生地の裏も色が乗っています。
ニセ物は裏が白いままです。

油絵の技法 その19 マーブリング

水面に油分を含んだ液体を皮膜状に流し、それを平面に写し取る技法。 流れるような形が大理石の模様を連想させることから名付けられた。 偶然にできる色と形の面白さを使用する技法である。 日本では墨流しといい、古くは古今集などの紙にも用いられている。 トルコでは装飾品の模様として用いられエブルとも呼ばれている。 もともと中国で始まったものがトルコに伝わったと言われている。

紙、木工面等の水を吸い込む性質のあるものであれば全てマーブリングで染めることができます。 水面の水よりも比重の軽い墨汁や絵具を垂らして、水面に浮かぶ墨汁や絵具の模様を紙に染める 絵画画法です。 偶然にできる色と形の面白さを利用する技法なので絵が苦手な子供でも楽しくでき、絵を好きに なるチャンスをつくることができます。 又、この技法は幻想的な画面を作りますから、お話の絵や空想の絵でイメージを広げ、想像力 を培うのに大きな助けとなります。 子供たちがそのユニークな感性を発揮することのできる技法です。 方法は簡単です。 まずは平たいトレイの水を張り、そこへ墨汁又は絵具を垂らします。 そして先端に油を付けた爪楊枝などで数回水面をつつきます。そうすると墨汁の場合は墨の黒い 膜の穴が明きます。次に竹ひごを使ってかき混ぜます。 そうすると神秘的な渦巻状の模様ができます。これを和紙に写し取ったら完成です。

油絵の技法 その20 混合技法

混合技法とは、テンペラと油彩を併用する技法のことです。
テンペラとは油絵具が登場する前の絵具のことで、今日では水溶性の絵具のことを指すのが一般的です。
ヨーロッパで最も多く使われていたのは卵テンペラです。
この混合技法の最も特徴的なことは、油の上に水、すなわち絵具の上にテンペラがはじくことなく乗ることです。
そのために乳化という処理をすることになります。
この乳化という現象は良く知られているマヨネーズの製造法に見ることができます。
サラダ油を卵黄と混ぜると酢(水)に混じる現象です。
これは油脂分が水中に微粒子状に分散しているエマルジョンという状態です。
このようにすることによって、描く時は水で希釈でき、乾燥すると水分が飛んで、油脂分だけになって、油絵具と同じになります。
このエマルジョン化したテンペラと油絵具を交互に塗り重ねていく技法が混合技法です。
テンペラは水で溶いて描きますから水分が蒸発した時点で乾きます。
又、その体積の大半が水ですから、乾燥後は量が減り、フラットになります。
逆に油彩は乾燥が遅いです。がぼかしや色彩の移行が簡単にできます。
また油、樹脂分は無くなりませんから盛り上がりは残り、透明になります。
これらの両方の長所を取り入れて表現するのが混合技法と言えます。

油絵の技法 その21 テンペラ

テンペラは現代で言う油彩画が発明される前までは西洋絵画の主流を占めていた技法です。
テンペラ画の絵具は顔料を主に卵を練ったものです。
特徴として水で描くことができ、乾きが早く、発色がよいことです。
また油絵具との併用も出来ます(混合技法)。
比較的簡単に絵具が作れるので手作りの面白さがあります。
透明水彩画のような描き方から重々しい古典絵画まで幅広い表現が楽しめます。
絵具の作り方ですが、簡単なのは卵の黄身と顔料を混ぜ合わせるだけというものです。
但しこの方法はシンプルだけに絵具の若干のもろさが出ますので、卵とダンマル樹脂とスタンドオイルを加えたメデユームと顔料を混ぜて絵具を作る樹脂テンペラという技法を使えば、より堅牢なテンペラ画を描くことができます。
しかしこの技法もメデユームの中の油分が多いので水に溶けにくく技術面で難しいところがあります。
そこで卵黄に油だけでなく、膠、小麦粉などを練りこんで、練りこみテンペラという技法もあります。
これですと、顔料と混ざりやすく、水によくなじみ、非常に堅牢な画面が得られます。
テンペラ絵具は油絵具と比べると修正がききにくいので最初からしっかりした下絵を描いておくこと。そして正確に支持体に写し取り、その形に沿って絵具を丹念に塗り重ねることが必要です。

油絵の技法 その22 フレスコ

油絵具が発明される以前は絵画技法と言えば、フレスコ画かテンペラ画でした。 当時の画家たちは競って教会の壁を飾り、人の目を魅了したのはフレスコの力強い表現と 鮮やかな色彩でした。 フレスコ画とは壁に直接絵を描く技法で、生乾きの壁に顔料を水で溶いて絵を描き、壁の 乾燥によって定着させるものでした。 ウレスコ画の描き方は3種類あります。 1)フレスコ(湿式画法 ブオンフレスコ)  通常のフレスコ画と呼ばれているもので、未乾燥の石灰モルタル壁に顔料を水のみで溶いて  描く方法です。 2)フレスコセッコ(乾式画法 アセッコ)  乾燥した石灰モルタル壁を水で濡らしておいて、顔料に石灰やカゼインなどのバインダーと  呼ばれるものを加えて、水で溶き、描く方法です。  石灰などが糊の役割を果たして定着します。 3)メッゾフレスコ  1)のフレスコ画法で描いた後、2)のアセッコ技法で加筆する方法です。  漆喰の乾燥する間に描ききれなかった細部描写や修正の為に行われます。

フレスコの他の絵画技法との違いは画面への絵具の定着を溶液に頼らないことです。 つまり日本画のにかわ、油絵の溶き油、水彩のノリ、といった溶剤はフレスコは一切不要です。 濡れた石灰の上に水溶きの顔料(粉末状の色素)を乗せてやれば石灰水が顔料を覆い、空気中 の二酸化炭素と反応して透明な結晶となります。 顔料はこの結晶に閉じ込められて美しさを保ちます。