風景画の描き方 その10 白と黒の使い方

色々な絵具を混ぜ合わせていくと、次第に黒くなってきます。
これは絵具で反射される光の波長と量が減少していくためです。
白色とは、可視光線を100%乱反射する物体です。ですから光の吸収体である絵具を混ぜ合わせて白色を
作ることはできません。
白色、灰色、黒色を無彩色といいます。可視光線をほとんど100%乱反射する物体は実際には存在しません
ので、普段我々が白色と呼んでいる色は本当は非常に明るい灰色ということです。
代表的な白はパーマネントホワイトです。
明度を高くする色です。
油絵では白は大量に使用します。そのためほかの絵具より大きいチューブが用意されています。
明るい色を作るためには欠かせないですが、白を混ぜた絵具は彩度が低くなり、鈍い色になるので要注意です。
どんよりした鈍い絵にならないように、画面上には白を混ぜた絵具と混ぜない絵具を両方バランスよく使い
ましょう。
代表的な黒はアイボリーブラックです。
黒は彩度を低くする色です。
透明感を感じさせる黒。絵具に混ぜるときは少なめに混ぜることが大事です。
ブラックを混ぜると色の鮮やかさが抑えられます。混色で自然の色に近づけたいときは、ブラックの代わりに
褐色を使うとよい。

風景画の描き方 その9 茶色の使い方

茶色は基本的には単独で使用しなくて、混色に使用し、他の色を抑える役割をします。
茶色を作る場合は 赤+黒+黄です。
青味かかった茶色が欲しいときは 赤+青+黄です。
混ぜる割合は黄5+赤3+黒1くらいがいいでしょう。
黒の発色が強いので注意しましょう。
これに白を混ぜればこげ茶色になります。
市販の絵具に使い勝手のいい2色の茶色があります。
バーントシェンナ
バーントシェンナは赤の代わりになります。
赤系の茶色です。テレピンで薄めて下描きや下塗りにも用いる。シルバーホワイトに混ぜて、あたたかい
色の地塗りにも役立つ。単色で赤の代役になり、赤などを混ぜて強すぎる色を抑える効果がある。
使い方の例題としては
バーントシェンナ+ブライトレッド 落ち着いた赤になる。
赤系クリムソンレーキ+少量のバーントシェンナ    自然な色になる
青系コバルトブルー +少量のバーントシェンナ
黄系パーマネントイエローライト+少量のバーントシェンナ
緑系パーマネントグリーンペール+少量のバーントシェンナ
バーントアンバー
バーントシェンナより深い褐色で、同じように下描きや下塗りに適している。
青系と混ぜて、より深く暗い部分の抑え色として用いる。
木の幹などの陰の部分は、黒を使わずに青系との混色を使用するのがコツ。色味が豊かになる。
バーントアンバー+ウルトラマリンディープ

風景画の描き方 その8 中間色

風景画を描く場合、木の葉や夕景の表現に黄緑や橙をたくさん使用しますので中間色があると色作り が楽になります。 鮮やか過ぎるので必ず他の色を加えて使用しましょう。 パーマネントグリーンペール 誠に使いかってによい緑色です。 樹木の表現に欠かせない色ですが、単色で大量に使うことは危険です。 緑が生っぽく、実在感がないものに見えて絵が軽くなってしまう危険性があります。 そこで他の絵具と混色して自然な緑を作り、四季の変化に伴う葉っぱの表現に対応させる。   春色(若葉)--黄系と混色して   夏色(青葉)--青系と混色して   秋色(紅葉)--赤系と混色して 木の一生も描き分けられます。春から夏、秋へと移り変わる色合いです。   パーマネントグリーンペール+レモンイエロー  =春   パーマネントグリーンペール+セルリアンブルー =夏   パーマネントグリーンペール+バーミリオン   =秋

パーマネントオレンジ あたたかさの演出に便利な色です。 紅葉や夕景に使います。混色やつなぎにも使用してもよい。 夕景では黄系と赤系の絵具の間に置いてつなぎの色として使う。 黄系、赤系、緑系に少量加えて、絵具の色の微調整に使う。   パーマネントオレンジ+ピリジャン(落ち着いた緑色) 茶系との混色、配色に適している。

風景画の描き方 その7 黄色の使い方

黄色は明度も彩度も高い、画面の中で強いインパクトを持つ色です。
パーマネントイエローライト
暖色系の黄色で混色に役立ちます。黄色からオレンジをコントロールすると、紅葉風景や夕景が自由に
描けます。緑の絵具との混色で色幅を広げる力を発揮します。
雲 パーマネントイエローライト+クリムソンレーキ+バーミリオン
レモンイエロー
寒色系の黄色で少量の白が混ざっている。
落ち着きのある黄色として単独使用するほか、混色では空や雲などのわずかな黄色味や夕景などが表現
できる。
海 レモンイエロー+セルリアンブルー+ホワイト
太陽 レモンイエロー+ホワイト
イエローオーカー
鉱物が原料の自然な黄色で地塗りや下描きによく使われる。
おとなしくおさまりのよい色で、混色のつなぎの色としても良く使われる。
オーレオリン
透明性の強い黄色、緑の絵具との混色で、サップグリーンやオリーブグリーンのような自然で使い易い
緑色を作ることができる。
青の絵具との混色は深いグリーンになり、緑の陰影の部分に使用できる。
オーレオリン+パーマネントグリーンペール  深みのある明るい緑
オーレオリン+ピリジャン          深みのある緑
オーレオリン+セルリアンブルー       少し暗い緑
オーレオリン+コバルトブルー        暗い緑、影に使う

風景画の描き方 その6 赤色の使い方

赤系統の絵具には 暖色系赤(黄色味の赤)と寒色系(青味の赤)の2種類あります。
色の持ち味を損なわないように、混色するときは気をつけましょう。
暖色系の赤に青を混ぜると、やや濁った紫ができます。それは既に暖色系赤に黄色が含まれていて
青をプラスすると3つの原色の混色になるからです。
バーミリオン
季節感を出すことができる重宝な色です。
暖色系赤です。黄色と混色して橙やオレンジをつくります。伝統的な朱色です。
緑系との混色によって樹木や草花の色ができます。
単色で紅葉風景に使う。
春の絵の下塗り、夕焼けに使うと温かみを与える。
ブライトレッド
赤の中でも一番原色に近い強い暖色系の色です。
暖色系の色との混色では色を冴えさせるが、寒色系の色との混色では相手の色をおさえてしまう。
樹木の葉に見られる幅のある色合いを作る役割をする。
ブライトレッド+ピリジャン
クリムソンレーキ
透明性の強い寒色系赤。透明色の青と混色すると暗い紫ができる。
この紫は色が深く、そのまま塗ると黒っぽく見えるため少量の白を加えて使用する。
緑系や褐色系との混色にも向いている。
グレース技法にも適している。
クリムソンレーキ+ピリジャン
クリムソンレーキ+マーントシェンナ

 

 

風景画の描き方 その5 青色の使い方

ブルーという色は、明度は低くても彩度の高い鮮やかさを持った色相です。
青い絵具は種類が多いのですが、風景画でよく使われるのは次の3色です。
コバルトブルー
海の色を表現する場合、コバルトブルーは魅力的な色です。
青の中に深みのある青を作る場合はウルトラマリンディープを混ぜます。
空の色に使ってもおもしろい。高く晴れ渡った感じの表現ができます。
ウルトラマリンディープ
海の色を表す青、コバルトブルーやピリジャンと混色すると、海の段階的な深さを示す階調をつくる
ことができます。
セルリアンブルー
空の変化とつなぎに便利な青色です。
白と混ぜて基調となる空を作り、他の色を加えて変化をつけると、季節、天候、時刻に自在にに
対応できる。
空と海、空と木々、又は山々とつなぎの色として便利です。
但し、コバルトブルーやセルリアンブルーは絵具の中でも価格が高い方に属します。(ほるべいん E)
影の色を作る
濃い青と寒色系の赤を混色してできた暗い紫は白と混ぜると色合いがはっきりします。
この紫を陰影の色として使うと印象派風の作品ができます。
陰影に青や紫を使うとおもしろいでしょう。
ウルトラマリンディープ+クリムソンレーキ+ホワイト
コバルトブルー+クリムソンレーキ+ホワイト

風景画の描き方 その4 ピリジャンがおもしろい

風景画でおすすめの色はピリジャンです。
ピリジャンはとても不思議な色です。緑なんですが3原色を混ぜてもつくることができません。
単独では人工的に感じられる透明色ですが、他の色と混色すると豊かな自然の色ができます。
例えば、風景の中の草や木々の色。
深い青系の緑なので、黄、赤、茶などを混ぜると明るい緑や暗い緑ができます。
明るい緑が欲しいときは
ピリジャン+レモンイエロー、パーマネントイエロー、オーレオリン、イエローオーカーなど
暗い緑が欲しいときは
ピリジャン+バーミリオン、ブライトレッド、クリムソンレーキ、バーントシェンナなど
池や湖の色は寒色系の青と混色すれば深い水の色となります。
ピリジャン+セルリアンブルー、コバルトブルー、ウルトラマリンディープなど
この水の色は海を描くときにも使えます。
空の変化でも使えます。
空を描く時は空色=ブルーという単調な観念は捨てましょう。
ピリジャンを混ぜると空も雲も変化が増します。
青と白を基本の色としてピリジャンを少し混ぜると抜けるような青い空が表現できます。
一つの描き方ですが、
ピリジャンにホワイト、レモンイエロー、クリムソンレーキ、などを少量使い、セルリアンブルーで
溶けこませます。
変化に富む質感が得られます。

 

風景画の描き方 その3 風景画用の画材(筆とナイフ)

凸凹のあるキャンバスに力強く描くには硬くて腰のある豚毛の筆が最適です。
細い部分や細い線を描く時は、日本画用の面相筆を使います。但し柔らかくて腰のしっかりしたものを
選びます。
ペンチングナイフはひし型の刃先をしたものが使い易い。
描画用には刃の長さが3cm前後のものがよい。
地塗り用には7cm程度の大きめのものを用意しましょう。
筆の大きさの大体の基準は例えば8号くらいのキャンバスに描くのであれば筆も8号くらいが丁度いい。
油絵具で絵を描く場合は筆で描くことにこだわる必要はない。ナイフで描いてもよい。
他にも指も立派な筆です。粘土細工用の木のナイフもおもしろい。
画面の質感を出すために色々なものに挑戦してみましょう。
油絵をやっていて最初に失敗するのが筆の後始末です。
しっかり洗わないと、1回使用しただけで、ダメになります。洗い方がよければ何年ももちます。
筆洗器と市販の筆洗液(ブラシクリーナー 石油系)、せっけん、ボロ布を準備します。
筆に付いた絵具はまずは新聞紙又はチリ紙、布などでよく拭き取ります。
次に、筆洗器の中にブラシクリーナーを入れて、筆洗器の底をたたくようによく洗います。
この段階では筆の中の絵具は取れていません。よく拭いて油を取ります。
そして石鹸をつけてぬるま湯で手でしごいて洗います。
最後に布でよく拭いて穂先を揃えます。

風景画の描き方 その2 風景画用の画材(絵具)

油絵具は大変多くのメーカーからたくさん市販されています。国産、外国産を含めて。
又毎年のようにメーカーの競争により新しい発色のよい絵具が発表されています。
一般的な絵具は(一概には言えないかも)クサカベ、ホルベイン、マツダ、ウインザー&ニュートン。
他にもヴェルネ、レンブラント、ギルド、ルネッサンス、ジョージアン、ヴァンゴッフォなどがあります。
それぞれに特徴はあるのですが、画域の広がりとともに絵具に対する要求の好みも出てきますので、
その都度、違うメーカーのものを使うのも、おもしろさが出ると思います。
風景画の基本的な絵具の色が特別決まっているわけではありません。が大体において絵具の12色セット
に、セルリアンブルー(青)、ブライトレッド(赤)、パーマネントオレンジ(橙)、オーレオリン(黄)、
レモンイエロー(黄)の5色は揃えておきたい。
溶き油ですが、チューブから直接出して溶き油で溶かずにそのまま描いても問題はありません。
溶き油で溶いて塗ると塗りやすくなります。
溶き油も各種あります。
ペンチングオイル(調合済みの溶き油、テレピン、リンシードオイル等を含む)がお薦めです。
地塗りの乾きを早くしたい時はペトロールで溶きます。
描き始めはテレピン(ターベンタイン)がよい。筆さばきがよくなる。
描画中はリンシードオイルをペンチングオイルに加えるのもいいでしょう。豊かなつやが得られます。
野外写生用には速乾性メディウムを使います。ナイフで絵具に混ぜて使います。
ペンチングメディウムゼリー、ラビットメディウム、ストロングメディウムグリスなどがあります。

風景画の描き方 その1 風景画用の画材(キャンバス)

キャンバス、絵具、パレット、溶き油、メディウム、筆、ナイフ等は最低限必要な画材です。
キャンバスの地塗り
市販のキャンバスは既に白い塗料が塗られていますが、風景画を描く時はあらかじめ、地塗りをしておくとよい。
描きたい風景に応じた地塗りにしておくと、キャンバスの目がよく整えられ、絵具の発色や絵具のつきがよくなる。
シルバーホワイトに地塗り色となる絵具を加えたものか、あるいは地塗り用のファンデーション絵具(ホワイト、
グレー、オーカー、アンバーなど)でもよい。
よく乾燥させてから使用する。
白いキャンバスにいきなり描くよりは手早く重ね塗りができるので写生時間短縮となる。
下地の色は例えば春の新緑の山や木々を描く時はイエローオーカーなどの暖色系の地塗りが下地効果が出る。
地塗りの方法は上記のシルバーホワイトに地塗り色を加えてよく練る。ナイフを使ってペトロールを少しずつ
加えてクリームくらいの粘土に練って溶く。
そしてキャンバスナイフで塗る。その後平筆で縦横に画面をならす。
ナイフだけですとキャンバス全体がつるつるになり、絵具がつきにくい。
地塗りが乾いたら、キャンバスに寸法の目安となる線を鉛筆でひて置くとすぐに絵が描ける状態となる。

構図 その9 基本の構図

構図は絵を描く時の重要な要素であることを今まで何度も述べてきました。
構図は絵画だけでなくデザイナーや写真家にとってもとても大事なことです。
それは絵画と共通している部分がかなりあります。
これから述べる基本的な構図はデザインや写真とほとんど同じで共通しています。

三角構図

もっともよく知られた構図です。下部が広く上部が小さい。
極めて安定感のある構図です。下部がどっしりして上部を支えている構図です。この構図の作品は大変多い。

逆三角構図

あえて構図の1種類に加えてみましたが、一般的にはこの構図で絵を描く人は少ないでしょう。
見る人に不安を与える不安定な構図です。あえてそうした見る人に不安な気持ちにさせる絵を描く時にはいい構図です。

日の丸構図

中心部にモチーフの主題をどーんと置く構図です。主題がモチーフが非常に強く出ます。
主題の周りの処理が難しくなります。
1点豪華主義みたいな描き方となります。

左右上下対象構図(シンメトリー構図)

古代からこれも良く使われています。逆さ富士のように描けば上下対象、水鏡のように描けばこれも上下対象、トンネルの入り口を真正面から描けば左右対称です。

対角線構図

水平な横線に合わせた構図ではなく手前から右の左に斜めに配置した構図のことです。海岸線を斜めに描く場合が多いですがそれがこの構図です。

三分割構図

これもよく使われる構図です。対象のモチーフを縦に三分割、横に三分割、そうすると囲むという字ができます。交点が4つできます。この交点近くにモチーフの重要な部分を配置すると落ち着きのある安定的な構図となります。ちょっと慣れないと難しいかも。

他にもたくさんあります。構図の基本をわざと外す場合もあります。これは作者の自由です。しかし基本として知っておくことも大事です。

構図

構図 その8 構図のはなし

絵画における構図はすごく身近なものです。学校の美術の時間で最初に習うのは構図です。
構図は絵画の表現手法の中では重要な部分です。
人間の感覚として本能的なものかもしれませんが、バランスのとれたもの、あるいは左右対称
なもの、を好む傾向にあります。
気持ちが安定して落ち着きます。
感覚的に絵を描こうとすると、無意識に描きたいもの、モチーフを真ん中に置いて描こうと
します。あるいは左に置いたらバランスを考えて右に何かを置いて描こうとします。
右に何かを置こうとすることは自然な感覚です。
このような左右対称、バランスのよい絵がいい構図と思いますか?
画面の真ん中に描きたいモチーフを置くと実はつまらない構図になりがちです。
見る人にとっても理解し易い構図なので、絵を一瞬見ただけで安心し、満足してしまうのです。
絵画の歴史の中にもモチーフを中心に置く作品はいっぱいあります。最近の美術展覧会に行っても、そのような作品は多く見受けられます。
それらはそれで絵の目的があって中心に置かれています。
しかし、基本的には絵を描く場合は左右対称の構図は避けた方がよろしい。
美術館に行ったとき、1つの作品を何秒見ていますか。
作者の表現したいモチーフが絵の真ん中にあると、見る人は一瞬で理解してしまいます。
そのため絵を見てくれる時間が少ないのです。
つまり見る人の視線を逃がさないように、なるべく長くその絵に留まってくれるような構図がいいのです。
モチーフが中心ではなく、左右対称でもなくバランスが崩れた絵は見る人に視線が絵の中で遊びます。
分かったと思うまで時間がかかります。鑑賞する時間が長くなります。
これがいい構図と断定は出来ませんが、こういう描き方が絵としてはおもしろいのです。

構図

構図 その7 構図の基準

絵を描く上でモチーフの構図によりキャンバスの大きさを選定することになります。
キャンバスの大きさはF,P,Mといった記号で表示されています。
しかし、これは決して絶対的な形ではありません。
先にキャンバスの大きさありきではなく、あくまでもモチーフが主役です。
自分のモチーフに合う規格のキャンバスがなければ自分でキャンバスを自由に作ればよろしい。
しかしこの規格となっているキャンバスの縦横の寸法比、つまり黄金比は意味があります。
黄金比は長い歴史と経験則から導きられた、極めて合理的な寸法比です。
黄金比は1:1.618です。
但しこれは厳密なものではなく実際に売られているキャンバスは比率が異なっているものが多くあります。基本的に土台になっている比率で参考程度に見てください。
キャンバスMは黄金比そのものです。縦1に対して横は1.618です。
キャンバスFはM型を縦に2つ並べた形です。分かり易く言えば縦2に対して横が1.618になります。
キャンバスPは縦を1としてできる正方形の対角線を半径とする円弧を引いてできた長方形です。
縦1に対して横は√2となります。
誰でもいたずら描きするときはFPMといった規格を意識はしないでしょう。
絵を描いてみたいと思って画材屋に行くとキャンバスのこの記号を見つけることになります。
このキャンバス型といわれる規格がどのようなものか知ることに意味はあるのですが、現実には避けて通れませんので、絵を描くてがかりとして一応認識しておいた方がいいでしょう。

構図

構図 その6 構図のこと

構図の捉え方は画家によって実に様々です。
ある具象絵画の画家は次のように言っています。
私は具体的なものを題材にして絵を描いている。誰が見ても何が描かれているか分かるような絵ですが、それはものの形やものを取り巻く状況を説明するためではありません。
目にみえるもの、形あるものをきっかけとして、目に見えない何かを描きたい。
日常の中で、目にする様々なもの、考えること、そして触れ合う人々。それら現実のの中でふとした瞬間に実感する、言葉では掬えない抽象的な、しかし満ち足りた感覚。
見えないけど確かに感じたその感覚は存在へと繋がる、誰もが共有することのできる人間本来の根本的な感覚ではないかと思います。
私にとって構図を考えることはキャンバスという限定された空間に見えない何かを書く為の必要かつ重要な要素で、どのような構図にするのかということから、絵を描く作業が始まります。
描く手順を決めているわけではありませんが、描く絵のイメージが決まると、まず小さなスケッチブックにそのイメージを描いていきます。
主題になるモチーフだけ描くのではなく、モチーフを矩形で囲って、主題の形と、それを描いたことによって見えてくる余白の形とのバランスを考えながら画面に入れる大きさや視点を決めていきます。構図が大まかに決まるとキャンバスを作ります。比率はスケッチブック上で決めた矩形と同じですが大きさはイメージによって異なります。自分に合う大きさを探りながら決めていきます。
そしてキャンバスに描き始めますが、スケッチブックの構図をもとに描きますが、その通りには描きません、参考程度です。新たな形を手掛かりにして絵と自分との対話が始まるのです。
自分の気持ちとぴったり合う形や色になるまで筆を動かしていますとやがて自分の構図が見えてきます。

構図

構図 その5 構図の1つの手順

構図の1つの手順として、例えばミカンの形がおもしろいから描きたいな、と思ったとき。
そのモチーフを色鉛筆でデッサンして、小さいものですがアイディアスケッチを作ります。
あらゆる向きからモチーフをデッサンして、それをタブローの画面にどのように入れるかを考えていきます。
デコボンを5つ横に並べたとします。デコボンは枝付きです。
丸い塊と横に伸びる枝がおもしろいと思える構図を作っていきます。
その面白さはリズムです。意外と感覚的ななものです。
とは言っても画面に向かうときには頭の中にその構図が出来上がっていなければなりません。
だからそれを絵にするときは、真っ白いキャンバスにすっと描いていけるわけです。
そのために色々な方向からデッサンしなければならない。デッサンが一番大事です。
手を動かして相当の数のデッサンをしている内に構図が頭の中に出来上がっていくことが分かります。
この段階で画面の大きさも決めます。キャンバスに下塗りした後、鉛筆で軽くあたりをつけて描画に入ります。すでに頭の中にイメージが出来上がっているはずですから、どんどん描き進めていきます。ここであまり何回もやり直しをしてはいけません。やり直しは画面が固くなり、つまらないものになってしまいがちです。
どこに何を配置するかもあまり考えすぎないで、こうするとおもしろいな、というバランスとか勘で決めていけばよろしい。

構図

構図 その4 構図は画家の感性

構図は画家の感性です。花の場合だったら自分でデッサンしたものを、画面の中にどのように入れたら空間が活きるか、自分が感じる花の気持ちがその四角い世界で最大限に活きるためにはどうしたらいいか。それは描き手のいわゆる感覚、感情、センスといったものがそのまま出てきますから、あまり無理をせずに、こうしたいと思ったことをするのが一番です。
構図の分析の一つに黄金分割がありますが、画家が最初からそれを意識して描いたというよりは、人間の今持っているとても気持ちの良いバランスがそこに表現さえているということだと思います。

ですから絵を見ていて気分が悪いなと思ったら、それは気分の悪い構図なんです。
もし、気分が悪い、気持ちが悪い、嫌な感じというのを描きたいのだとしたら、そういう構図を作らなければならないわけです。
風景の中に木を描く時に、木はもう少しこちらにあった方がいいな、とか自分で作っていきます。
それは勘です。空きがこれくらいだったら、地平線はこれくらいというように。
いわゆる視点の置き方によって画面は変わってきます。
日本の伝統的な描き方は絵巻にありますように、いわゆる平行です。
平行に見ていく。遠いものを小さくしてしまうと見えない。
それだったら全部に焦点を当てていく。掛け軸の山水画がそうです。
前景、中景、後景と3つに分けて、どのようにヴァルールを考えるかと言うと、濃淡を使います。
それによって遠くに行っているように見えるわけですから、目の錯覚を使用して絵を描いているわけです。

平面の2次元のところに3次元的なものを描かねばならないわけですから、当然それを認識できていないと絵は破綻します。

構図

構図 その3 構図についての考察

最近ではインターネットで動画を見ることができます。そこで2時間程度でモデルを描くパフォーマンスが行われていました。
その映像に映った彼らを見て思ったのは、早く描くことが目的になってしまって、まるで作品が言い訳のようになってしまっているということでした。
作家としての哲学や個性、価値観はどこへ行ってしまったのでしょう。
それぞれの作家のアトリエが同じでないように作品にもその作家なりの考え方が出てきてしかるべきで、それがなければ作品としてつまらないものになってしまいます。
モチーフをよく伝えたいという思いで、構図は自然と決まります。
洋画家が一番最初に構図として習うのは、画面を水平に走る横の線です。
しかし単純にまっすぐ横に線を走らせただけでは、画面におもしろみが無くなってしまうことがあります。

絵画でバランスを取る方法に2種類あります。

一つは破綻させないように描くこと。
もう一つはやじろべえのようにわざと揺らす方法です。あえて揺らぎを与えて、一見不安定にすることで、画面に動きを作り出すことも必要です。

また、幾何学的に画面を分けて構図を決める方法もあります。

画面の二分の一、四分の一で分割したところに必ず何かモチーフを配する。だからと言って良い構図になるとは限りませんが、基準があった方が描きやすいという画家は多い。

構図

構図 その2 構図は絵を描く手段

構図にはいくつかのパターンが存在します。
例えば美大の受験するとき、受験をクリアするためにある決まったパターンがあります。

そういう画一的なものが作品として発表されたときに人の心に響くかというとなかなか難しいでしょう。

やはり誰にもできないものを作り出すからこそ価値があるのだと思います。
構図は単にバランスが良いというだけでは何にもなりません。
その絵が出来上がったときに、絵を見る人達の心に引っかかるかどうか。相手に明快な印象を与えることがげきれば、描きたいテーマも相手に伝わるはずです。

構図だけどんなに考えても、画面が単なる色や形のパズル合わせ的なもので終わって
しまえば意味のないことです。
構図は絵を描く手段ですから、絵が最終的に良ければいいのです。
画家にとって描くモチーフ、対象が重要です。
モチーフ、テーマありきです。それを良く見せる、相手に伝えるための手段として構図があります。

描きたいものがあれば、必然的に構図は決まってきます。

本物を見て描きなさいとよく言われます。それはとても大事なことです。
美術品として評価のあるもの、人に大切にされてきたものには、そのもの自体から強いイメージが生じます。

そういうものは見ていると自然に描きたいという思いを起こさせてくれます。
モチーフから得る力というのは画家にとって本当に大きいものです。

構図

構図 その1 構図って何

構図とは基本的に自分が描きたい絵のテーマがはっきりわかるように画面の中にモチーフを配置することです。

よく聞かれます、いい構図ってどんな構図?

そんな構図はありません。
だからいい構図ってどんな構図、ではなく狙いや目的が先にあって、それをよりよく見せるため、演出するために取捨選択して切り取られ、画面に残ったものが結果として、いい構図なのであり、自分の意見も何もない状態での漠然としたいい構図、というものは存在し得ない。

確かに構図によって、その絵の価値の半分以上が決まってしまう、と言われています。極めて絵を描く上では重要な要素です。

例えば風景画の構図の取り方を考えてみましょう。風景はとても広いのでどこを描いたらいいか迷います。

自分が一番描きたい場所を中心に風景を切り取りたい。どうしたらいいのか。

まずは1つのパノラマ的な風景を見たとき、その中で一番描きたいものは何かをしっかり考える。

山とか、湖とか建物とか、欲張ってしまうと絵がまとまりません。

このように風景画においても先に構図があるのではなく、画家の意思が、描きたいと思う対象を明確にすることが先で、それが決まったとき、決まった切り取り場面が構図なのです。

ちなみに風景の切り取り方は両手の指で四角を作って覗くと簡単に構図が取れます。
そして遠近法を充分に考慮してください。遠景、中景、近景の配置の仕方です。

構図

色々なマチエール その6 マチエールの基本

マチエールの語は岩波西洋美術用語辞典では、物質の意味、美術では絵具など作品を形作る 物質的素材及びその質感のこと。と簡潔に述べている。 美術手帖増刊号 油絵のマテリアル(美術出版社)の中の油絵表現用語辞典で森田恒之氏は 岡鹿之助著 油絵のマチエールのまえがきを次のように紹介している。 藤田嗣治氏のすすめでサロンドートンヌへ絵を持っていった。 フランス人の絵の中に自分の絵を置いてみて、はじめて自分の絵には絵具がものを言っていない ことが分かった。 自分の絵の右隣も左隣の絵も絵具はカチッとキャンバスについて、色の張りもあり、冴えている。 だが自分の画面は指で触れればポロポロと剥がれ落ちそうだ。 私は芸術以前の単に材料の物質的な取り扱いさえ知らない点を思い知らされて茫然としたもの である。 フランスの画家たちのアトリエを訪ねてみると、油絵500年の伝統を持ちながら、めいめいが キャンバスを作ったり、絵具の練り方を工夫したり、その材料を生かす苦心の大きさに今更の ように驚きもし、又大いに勇気づけられた。 作品の中に価値を実現する技術を持つ者が創作者であるならば、創作に導く心の動きをキャンバス に定着させる技術獲得のために使用する材料の性格は知悉しておきたいものだ。

ここに紹介した文面からマチエールの本質が見える。

色々なマチエール その5 マチエールをジェッソで作る

モチーフに合わせて、ジェッソでマチエールを作ることが可能です。
ジェッソは現代的な地塗り材です。油絵に最も適しており、又相性もよい。
画材屋で簡単に入手出来、多くの種類があります。ごく一般的な下地処理材でしょう。
ジェッソは地塗りに適し密着性が高く固着力があり発色、なじみ、色沈みがありません。
ジェッソは下地塗りの画材としては幅広く使えます。
キャンバスやボード以外にも、板や紙、石やコンクリート、金属、ガラスなどにも対応可能です。
ジェッソは速乾性ですので指触乾燥までの時間が非常に早い。従来のファンデーションやオイル
カラープライマーと比較するとよく分かります。
このジェッソを使って砂や石を混ぜ込むことや、布などをキャンバス等に貼り込むコラージュ
技法がジェッソの強い糊効果によって、極めて効果的なマチエールができます。
又、平らなマチエールが欲しいときはキャンバスの目や板の目をフラットタイプで仕上げます。
さらに平滑面に仕上げる場合はフラットタイプに水を加えて流動性を与えて仕上げます。
そしてサンドペーパーで磨き上げます。
ジェッソを使っての表現手法(他にも色々あります)
ジェッソの硬練りでナイフエッジを使う
ジェッソの硬練りで筆跡を残す
ジェッソの硬練りで布や小石を貼り付ける
ジェッソの硬練りで砂を混ぜてざらつきのある絵肌にする
ジェッソの硬練りで櫛目を付ける
ジェッソの硬塗りでローラーで模様をつける
などなど。

色々なマチエール その4 マチエールは大事な要素

絵画においてマチエールは非常に大事です。
しかし具象画を描く限り、あまりにマチエールにこだわりますと、絵が成立しなくなります。
どういうことかといいますと。
それは絵を描くにあたって、マチエールのほかにカラー、フォルム、ヴァルール、遠近、立体、
空気、点、線などの意識が必要となるからです。
マチエールにこだわり過ぎて画面のある場所のある種のマチエールとして絵具を盛り上げた、と
します。
一箇所だけでは絵になりませんから、他の場所にもいくつかの調和と安定と変化で盛り上げた
とします。
しかしその盛り上げが最後の完成まで生き続けていけばよいのですが、製作中には必ず変化が
伴いますので、削り取って、他の場所に盛り上げることもします。
これが製作中の心持に影響を与え、不自然な疲れとなります。
絵の制作には心の持ち方が大切ですのでこのような不自然さは絵の制作にはよくありません。
マチエールは大切ですが、メインではなく、あくまでも付随するものと考えるべきです。
油絵はもともと塗るというよりは付けると考えた方が正しいでしょう。
マチエールの表現手法として、絵具の乾きが遅いのでペンティングナイフで削り取ったり、
画面をかき回したりすることができます。ペンティングナイフそのもので描くこともできます。
油絵は自然に厚塗りになる要素が強いようです。
ごつごつした、とげとげした、ざらざらした質感のマチエール、感性のおもむくまま表現できる
利点があります。

色々なマチエール その3 マチエールの解釈

油絵はごつごつしたマチエールになりがちですが、このような絵肌だけがマチエール
ではありません。
アクリルのように薄く塗り重ねて得た絵肌も味わいがあります。
マチエールの一般的な解釈は質感です。
具象画を描く限り、質感が大事な要素となります。
石のような硬いものは硬く、雲のように柔らかいものは柔らかく、花は花の質感、水は水の
質感など、物には様々な質感があります。
ここで気をつけたいことは、石を表現するのに石そのものの質感を表現すれば済むものでは
ありません。石に光が当たり、様々な表情や色や形があります。それを画家が感じ取って
描くのであるから画家の石になります。
石というのは言葉であって石というより硬い塊がそこにあるのです。
画家は画面の構成上、その固い塊を自分なりにデフォルメすることを要求されるでしょう。
何も同じに描く必要はないのです。
どんなにデフォルメされていても、その塊は硬い面積を有してなくてはなりません。
石を描くのでなく、石の塊を描くのです。
それが質感です。雲も花も水も同じです。
マチエールはこのように解釈できます。
マチエールをただ単に絵肌として見るだけでなく、画家が描いた絵のテーマに沿った、自然で
抵抗なく受け入れられるような、テーマとの必然性を見ることも大事です。

色々なマチエール その2 マチエールの注意点

絵具に色々な材料を混ぜてもいいのですが、混ぜるものは安定していて、絵具に影響を
与えないものを選ぶべきです。
市販のマチエール材料を使えばだいたい安心ですが、洗ってない海砂などを混ぜると、砂の
塩分が吸湿して油絵具の塗膜を劣化させたり、アクリルだと粘土調整剤の機能を低下させます。
又、接着剤の役割をするのは絵具そのものです。
絵具は顔料の接着に必要な程度のバインダーしか含んでおりませんから、マチエール材の
混入によって接着剤不足になることがあります。
やや多めのマチエール材を混ぜるときは油彩ならアルキド樹脂のメディウム、アクリルなら
アクリルメデイウムを補充して接着力を補ってください。
一般的にマチエール材を絵具に混ぜて使いますが、混ぜるのではなく下地の絵具にマチエール材
を撒き散らして、下地が乾燥した後、その後上から絵具を引く場合もあります。
この場合は補助の接着剤を多めに絵具に入れる必要があります。
多くの画材店でマチエール材が売られています。
例えば
ネオマチエール、ストーンマチエール(方解石)(小粒、大粒)
サンドマチエール(天然砂)-シェル、シェル極小、マーブル、マーブル極小、マリン
接着剤の補助材としてのりマチエールがあります。
他にもたくさんのマチエール材があります。画材店により違ったものが売られている場合
がありますので、色々研究されたら面白いでしょう。

色々なマチエール その1 マチエールとは

絵画作品を見るときに、よく使われる言葉にマチエールがあります。 マチエールは作品の材料や材質、素材を意味するフランス語で、簡単に言うと絵肌のことです。 作品の手触り感、触感、質感といったらわかるでしょうか。 マチエールというと最近では厚塗りでざらざらした荒い絵肌をイメージする人が多いようです。 マチエールの作り方は色々あります、無限にあると言った方がいいでしょう。 例えば、大理石、貝殻、砂を砕いて、すりつぶして粉状にしたものを絵具に混ぜる。 ローラーを使って壁のように塗る、サンドペーパで削る、布や紙、印刷物を貼り付ける等などです。   ごつごつざらざら感とは違い、すべすべぴかぴかの画面も1種のマチエールです。 パネルの画面にまずジェッソ(下地用塗料)で地塗りし、そして耐水ペーパーでサンディング、 それを何度も繰り返す。 ペーパーの番手は最初は400番、次に800番、さらに1200番、そしてさらに1500番 とかけていきますと、絵肌はピカピカになります。 つるっとした陶器のような画面に仕上がります。

マチエールのためのマチエールになってはいけない。 現代には多くのマチエールを生み出すために、様々な技法があり、多くの人はこれをマネしています。 なかなかオリジナルを作り出すのは難しいし、骨のあることで既存の技法に頼るのは仕方ありません。 絵を描く時にはそこに一貫したテーマがなければ意味がありません。 技法だけを追い求めてはいけないのです。

油絵の技法 その22 フレスコ

油絵具が発明される以前は絵画技法と言えば、フレスコ画かテンペラ画でした。 当時の画家たちは競って教会の壁を飾り、人の目を魅了したのはフレスコの力強い表現と 鮮やかな色彩でした。 フレスコ画とは壁に直接絵を描く技法で、生乾きの壁に顔料を水で溶いて絵を描き、壁の 乾燥によって定着させるものでした。 ウレスコ画の描き方は3種類あります。 1)フレスコ(湿式画法 ブオンフレスコ)  通常のフレスコ画と呼ばれているもので、未乾燥の石灰モルタル壁に顔料を水のみで溶いて  描く方法です。 2)フレスコセッコ(乾式画法 アセッコ)  乾燥した石灰モルタル壁を水で濡らしておいて、顔料に石灰やカゼインなどのバインダーと  呼ばれるものを加えて、水で溶き、描く方法です。  石灰などが糊の役割を果たして定着します。 3)メッゾフレスコ  1)のフレスコ画法で描いた後、2)のアセッコ技法で加筆する方法です。  漆喰の乾燥する間に描ききれなかった細部描写や修正の為に行われます。

フレスコの他の絵画技法との違いは画面への絵具の定着を溶液に頼らないことです。 つまり日本画のにかわ、油絵の溶き油、水彩のノリ、といった溶剤はフレスコは一切不要です。 濡れた石灰の上に水溶きの顔料(粉末状の色素)を乗せてやれば石灰水が顔料を覆い、空気中 の二酸化炭素と反応して透明な結晶となります。 顔料はこの結晶に閉じ込められて美しさを保ちます。

油絵の技法 その21 テンペラ

テンペラは現代で言う油彩画が発明される前までは西洋絵画の主流を占めていた技法です。
テンペラ画の絵具は顔料を主に卵を練ったものです。
特徴として水で描くことができ、乾きが早く、発色がよいことです。
また油絵具との併用も出来ます(混合技法)。
比較的簡単に絵具が作れるので手作りの面白さがあります。
透明水彩画のような描き方から重々しい古典絵画まで幅広い表現が楽しめます。
絵具の作り方ですが、簡単なのは卵の黄身と顔料を混ぜ合わせるだけというものです。
但しこの方法はシンプルだけに絵具の若干のもろさが出ますので、卵とダンマル樹脂とスタンドオイルを加えたメデユームと顔料を混ぜて絵具を作る樹脂テンペラという技法を使えば、より堅牢なテンペラ画を描くことができます。
しかしこの技法もメデユームの中の油分が多いので水に溶けにくく技術面で難しいところがあります。
そこで卵黄に油だけでなく、膠、小麦粉などを練りこんで、練りこみテンペラという技法もあります。
これですと、顔料と混ざりやすく、水によくなじみ、非常に堅牢な画面が得られます。
テンペラ絵具は油絵具と比べると修正がききにくいので最初からしっかりした下絵を描いておくこと。そして正確に支持体に写し取り、その形に沿って絵具を丹念に塗り重ねることが必要です。

油絵の技法 その20 混合技法

混合技法とは、テンペラと油彩を併用する技法のことです。
テンペラとは油絵具が登場する前の絵具のことで、今日では水溶性の絵具のことを指すのが一般的です。
ヨーロッパで最も多く使われていたのは卵テンペラです。
この混合技法の最も特徴的なことは、油の上に水、すなわち絵具の上にテンペラがはじくことなく乗ることです。
そのために乳化という処理をすることになります。
この乳化という現象は良く知られているマヨネーズの製造法に見ることができます。
サラダ油を卵黄と混ぜると酢(水)に混じる現象です。
これは油脂分が水中に微粒子状に分散しているエマルジョンという状態です。
このようにすることによって、描く時は水で希釈でき、乾燥すると水分が飛んで、油脂分だけになって、油絵具と同じになります。
このエマルジョン化したテンペラと油絵具を交互に塗り重ねていく技法が混合技法です。
テンペラは水で溶いて描きますから水分が蒸発した時点で乾きます。
又、その体積の大半が水ですから、乾燥後は量が減り、フラットになります。
逆に油彩は乾燥が遅いです。がぼかしや色彩の移行が簡単にできます。
また油、樹脂分は無くなりませんから盛り上がりは残り、透明になります。
これらの両方の長所を取り入れて表現するのが混合技法と言えます。

油絵の技法 その19 マーブリング

水面に油分を含んだ液体を皮膜状に流し、それを平面に写し取る技法。 流れるような形が大理石の模様を連想させることから名付けられた。 偶然にできる色と形の面白さを使用する技法である。 日本では墨流しといい、古くは古今集などの紙にも用いられている。 トルコでは装飾品の模様として用いられエブルとも呼ばれている。 もともと中国で始まったものがトルコに伝わったと言われている。

紙、木工面等の水を吸い込む性質のあるものであれば全てマーブリングで染めることができます。 水面の水よりも比重の軽い墨汁や絵具を垂らして、水面に浮かぶ墨汁や絵具の模様を紙に染める 絵画画法です。 偶然にできる色と形の面白さを利用する技法なので絵が苦手な子供でも楽しくでき、絵を好きに なるチャンスをつくることができます。 又、この技法は幻想的な画面を作りますから、お話の絵や空想の絵でイメージを広げ、想像力 を培うのに大きな助けとなります。 子供たちがそのユニークな感性を発揮することのできる技法です。 方法は簡単です。 まずは平たいトレイの水を張り、そこへ墨汁又は絵具を垂らします。 そして先端に油を付けた爪楊枝などで数回水面をつつきます。そうすると墨汁の場合は墨の黒い 膜の穴が明きます。次に竹ひごを使ってかき混ぜます。 そうすると神秘的な渦巻状の模様ができます。これを和紙に写し取ったら完成です。

油絵の技法 その18 パティック

パティックとはろうけつ染めのことです。布にろうで模様を描き、染めるとろうが乗っているところはろうで染料が乗らず、染め残ります。
染色の工程を何回も行い、複雑な模様を作っていくのがパティックです。
一般的なパティックは幾何学模様や同じ模様が幾重にも重なるデザインです。
最近では絵画技法を取り入れた鮮やかな花や鳥をデザイン化したパティックもあります。
又逆に、絵画技法の1つとしてパティックの制作工程を絵を描く工程に取り入れることもあります。

パティックの本場はインドネシアのジャワやソロです。
この地域の伝統文化、伝統芸術として長年にわたり育まれてきました。
本場ではありませんがバリ島でも作られています。
バリ島はイカット(絣 かすり)やソンケット、グリンジンといった布が使われ、カランガッサム県のシンデメンというところで入手できます。
グリンジンはダブルイカットといった特殊な織物で世界でもインド、日本(大島紬)とバリ島しか作られていません。
バリ島に観光に行くと絵画技法を使った鮮やかなパティック風のニセ物が横行を目にします。
パティックのデザインを印刷した布をパティックとして売っています。
印刷で作った布はパティックではなく単なるパティックデザインのプリント生地です。
見分け方は裏を見ればすぐに分かります。
本物のパティックは染色なので生地の裏も色が乗っています。
ニセ物は裏が白いままです。