風景画の描き方 その1 風景画用の画材(キャンバス)

キャンバス、絵具、パレット、溶き油、メディウム、筆、ナイフ等は最低限必要な画材です。
キャンバスの地塗り
市販のキャンバスは既に白い塗料が塗られていますが、風景画を描く時はあらかじめ、地塗りをしておくとよい。
描きたい風景に応じた地塗りにしておくと、キャンバスの目がよく整えられ、絵具の発色や絵具のつきがよくなる。
シルバーホワイトに地塗り色となる絵具を加えたものか、あるいは地塗り用のファンデーション絵具(ホワイト、
グレー、オーカー、アンバーなど)でもよい。
よく乾燥させてから使用する。
白いキャンバスにいきなり描くよりは手早く重ね塗りができるので写生時間短縮となる。
下地の色は例えば春の新緑の山や木々を描く時はイエローオーカーなどの暖色系の地塗りが下地効果が出る。
地塗りの方法は上記のシルバーホワイトに地塗り色を加えてよく練る。ナイフを使ってペトロールを少しずつ
加えてクリームくらいの粘土に練って溶く。
そしてキャンバスナイフで塗る。その後平筆で縦横に画面をならす。
ナイフだけですとキャンバス全体がつるつるになり、絵具がつきにくい。
地塗りが乾いたら、キャンバスに寸法の目安となる線を鉛筆でひて置くとすぐに絵が描ける状態となる。

風景画の描き方 その2 風景画用の画材(絵具)

油絵具は大変多くのメーカーからたくさん市販されています。国産、外国産を含めて。
又毎年のようにメーカーの競争により新しい発色のよい絵具が発表されています。
一般的な絵具は(一概には言えないかも)クサカベ、ホルベイン、マツダ、ウインザー&ニュートン。
他にもヴェルネ、レンブラント、ギルド、ルネッサンス、ジョージアン、ヴァンゴッフォなどがあります。
それぞれに特徴はあるのですが、画域の広がりとともに絵具に対する要求の好みも出てきますので、
その都度、違うメーカーのものを使うのも、おもしろさが出ると思います。
風景画の基本的な絵具の色が特別決まっているわけではありません。が大体において絵具の12色セット
に、セルリアンブルー(青)、ブライトレッド(赤)、パーマネントオレンジ(橙)、オーレオリン(黄)、
レモンイエロー(黄)の5色は揃えておきたい。
溶き油ですが、チューブから直接出して溶き油で溶かずにそのまま描いても問題はありません。
溶き油で溶いて塗ると塗りやすくなります。
溶き油も各種あります。
ペンチングオイル(調合済みの溶き油、テレピン、リンシードオイル等を含む)がお薦めです。
地塗りの乾きを早くしたい時はペトロールで溶きます。
描き始めはテレピン(ターベンタイン)がよい。筆さばきがよくなる。
描画中はリンシードオイルをペンチングオイルに加えるのもいいでしょう。豊かなつやが得られます。
野外写生用には速乾性メディウムを使います。ナイフで絵具に混ぜて使います。
ペンチングメディウムゼリー、ラビットメディウム、ストロングメディウムグリスなどがあります。

風景画の描き方 その3 風景画用の画材(筆とナイフ)

凸凹のあるキャンバスに力強く描くには硬くて腰のある豚毛の筆が最適です。
細い部分や細い線を描く時は、日本画用の面相筆を使います。但し柔らかくて腰のしっかりしたものを
選びます。
ペンチングナイフはひし型の刃先をしたものが使い易い。
描画用には刃の長さが3cm前後のものがよい。
地塗り用には7cm程度の大きめのものを用意しましょう。
筆の大きさの大体の基準は例えば8号くらいのキャンバスに描くのであれば筆も8号くらいが丁度いい。
油絵具で絵を描く場合は筆で描くことにこだわる必要はない。ナイフで描いてもよい。
他にも指も立派な筆です。粘土細工用の木のナイフもおもしろい。
画面の質感を出すために色々なものに挑戦してみましょう。
油絵をやっていて最初に失敗するのが筆の後始末です。
しっかり洗わないと、1回使用しただけで、ダメになります。洗い方がよければ何年ももちます。
筆洗器と市販の筆洗液(ブラシクリーナー 石油系)、せっけん、ボロ布を準備します。
筆に付いた絵具はまずは新聞紙又はチリ紙、布などでよく拭き取ります。
次に、筆洗器の中にブラシクリーナーを入れて、筆洗器の底をたたくようによく洗います。
この段階では筆の中の絵具は取れていません。よく拭いて油を取ります。
そして石鹸をつけてぬるま湯で手でしごいて洗います。
最後に布でよく拭いて穂先を揃えます。

風景画の描き方 その4 ピリジャンがおもしろい

風景画でおすすめの色はピリジャンです。
ピリジャンはとても不思議な色です。緑なんですが3原色を混ぜてもつくることができません。
単独では人工的に感じられる透明色ですが、他の色と混色すると豊かな自然の色ができます。
例えば、風景の中の草や木々の色。
深い青系の緑なので、黄、赤、茶などを混ぜると明るい緑や暗い緑ができます。
明るい緑が欲しいときは
ピリジャン+レモンイエロー、パーマネントイエロー、オーレオリン、イエローオーカーなど
暗い緑が欲しいときは
ピリジャン+バーミリオン、ブライトレッド、クリムソンレーキ、バーントシェンナなど
池や湖の色は寒色系の青と混色すれば深い水の色となります。
ピリジャン+セルリアンブルー、コバルトブルー、ウルトラマリンディープなど
この水の色は海を描くときにも使えます。
空の変化でも使えます。
空を描く時は空色=ブルーという単調な観念は捨てましょう。
ピリジャンを混ぜると空も雲も変化が増します。
青と白を基本の色としてピリジャンを少し混ぜると抜けるような青い空が表現できます。
一つの描き方ですが、
ピリジャンにホワイト、レモンイエロー、クリムソンレーキ、などを少量使い、セルリアンブルーで
溶けこませます。
変化に富む質感が得られます。

 

風景画の描き方 その5 青色の使い方

ブルーという色は、明度は低くても彩度の高い鮮やかさを持った色相です。
青い絵具は種類が多いのですが、風景画でよく使われるのは次の3色です。
コバルトブルー
海の色を表現する場合、コバルトブルーは魅力的な色です。
青の中に深みのある青を作る場合はウルトラマリンディープを混ぜます。
空の色に使ってもおもしろい。高く晴れ渡った感じの表現ができます。
ウルトラマリンディープ
海の色を表す青、コバルトブルーやピリジャンと混色すると、海の段階的な深さを示す階調をつくる
ことができます。
セルリアンブルー
空の変化とつなぎに便利な青色です。
白と混ぜて基調となる空を作り、他の色を加えて変化をつけると、季節、天候、時刻に自在にに
対応できる。
空と海、空と木々、又は山々とつなぎの色として便利です。
但し、コバルトブルーやセルリアンブルーは絵具の中でも価格が高い方に属します。(ほるべいん E)
影の色を作る
濃い青と寒色系の赤を混色してできた暗い紫は白と混ぜると色合いがはっきりします。
この紫を陰影の色として使うと印象派風の作品ができます。
陰影に青や紫を使うとおもしろいでしょう。
ウルトラマリンディープ+クリムソンレーキ+ホワイト
コバルトブルー+クリムソンレーキ+ホワイト

風景画の描き方 その6 赤色の使い方

赤系統の絵具には 暖色系赤(黄色味の赤)と寒色系(青味の赤)の2種類あります。
色の持ち味を損なわないように、混色するときは気をつけましょう。
暖色系の赤に青を混ぜると、やや濁った紫ができます。それは既に暖色系赤に黄色が含まれていて
青をプラスすると3つの原色の混色になるからです。
バーミリオン
季節感を出すことができる重宝な色です。
暖色系赤です。黄色と混色して橙やオレンジをつくります。伝統的な朱色です。
緑系との混色によって樹木や草花の色ができます。
単色で紅葉風景に使う。
春の絵の下塗り、夕焼けに使うと温かみを与える。
ブライトレッド
赤の中でも一番原色に近い強い暖色系の色です。
暖色系の色との混色では色を冴えさせるが、寒色系の色との混色では相手の色をおさえてしまう。
樹木の葉に見られる幅のある色合いを作る役割をする。
ブライトレッド+ピリジャン
クリムソンレーキ
透明性の強い寒色系赤。透明色の青と混色すると暗い紫ができる。
この紫は色が深く、そのまま塗ると黒っぽく見えるため少量の白を加えて使用する。
緑系や褐色系との混色にも向いている。
グレース技法にも適している。
クリムソンレーキ+ピリジャン
クリムソンレーキ+マーントシェンナ

 

 

風景画の描き方 その7 黄色の使い方

黄色は明度も彩度も高い、画面の中で強いインパクトを持つ色です。
パーマネントイエローライト
暖色系の黄色で混色に役立ちます。黄色からオレンジをコントロールすると、紅葉風景や夕景が自由に
描けます。緑の絵具との混色で色幅を広げる力を発揮します。
雲 パーマネントイエローライト+クリムソンレーキ+バーミリオン
レモンイエロー
寒色系の黄色で少量の白が混ざっている。
落ち着きのある黄色として単独使用するほか、混色では空や雲などのわずかな黄色味や夕景などが表現
できる。
海 レモンイエロー+セルリアンブルー+ホワイト
太陽 レモンイエロー+ホワイト
イエローオーカー
鉱物が原料の自然な黄色で地塗りや下描きによく使われる。
おとなしくおさまりのよい色で、混色のつなぎの色としても良く使われる。
オーレオリン
透明性の強い黄色、緑の絵具との混色で、サップグリーンやオリーブグリーンのような自然で使い易い
緑色を作ることができる。
青の絵具との混色は深いグリーンになり、緑の陰影の部分に使用できる。
オーレオリン+パーマネントグリーンペール  深みのある明るい緑
オーレオリン+ピリジャン          深みのある緑
オーレオリン+セルリアンブルー       少し暗い緑
オーレオリン+コバルトブルー        暗い緑、影に使う

風景画の描き方 その8 中間色

風景画を描く場合、木の葉や夕景の表現に黄緑や橙をたくさん使用しますので中間色があると色作り が楽になります。 鮮やか過ぎるので必ず他の色を加えて使用しましょう。 パーマネントグリーンペール 誠に使いかってによい緑色です。 樹木の表現に欠かせない色ですが、単色で大量に使うことは危険です。 緑が生っぽく、実在感がないものに見えて絵が軽くなってしまう危険性があります。 そこで他の絵具と混色して自然な緑を作り、四季の変化に伴う葉っぱの表現に対応させる。   春色(若葉)--黄系と混色して   夏色(青葉)--青系と混色して   秋色(紅葉)--赤系と混色して 木の一生も描き分けられます。春から夏、秋へと移り変わる色合いです。   パーマネントグリーンペール+レモンイエロー  =春   パーマネントグリーンペール+セルリアンブルー =夏   パーマネントグリーンペール+バーミリオン   =秋

パーマネントオレンジ あたたかさの演出に便利な色です。 紅葉や夕景に使います。混色やつなぎにも使用してもよい。 夕景では黄系と赤系の絵具の間に置いてつなぎの色として使う。 黄系、赤系、緑系に少量加えて、絵具の色の微調整に使う。   パーマネントオレンジ+ピリジャン(落ち着いた緑色) 茶系との混色、配色に適している。

風景画の描き方 その9 茶色の使い方

茶色は基本的には単独で使用しなくて、混色に使用し、他の色を抑える役割をします。
茶色を作る場合は 赤+黒+黄です。
青味かかった茶色が欲しいときは 赤+青+黄です。
混ぜる割合は黄5+赤3+黒1くらいがいいでしょう。
黒の発色が強いので注意しましょう。
これに白を混ぜればこげ茶色になります。
市販の絵具に使い勝手のいい2色の茶色があります。
バーントシェンナ
バーントシェンナは赤の代わりになります。
赤系の茶色です。テレピンで薄めて下描きや下塗りにも用いる。シルバーホワイトに混ぜて、あたたかい
色の地塗りにも役立つ。単色で赤の代役になり、赤などを混ぜて強すぎる色を抑える効果がある。
使い方の例題としては
バーントシェンナ+ブライトレッド 落ち着いた赤になる。
赤系クリムソンレーキ+少量のバーントシェンナ    自然な色になる
青系コバルトブルー +少量のバーントシェンナ
黄系パーマネントイエローライト+少量のバーントシェンナ
緑系パーマネントグリーンペール+少量のバーントシェンナ
バーントアンバー
バーントシェンナより深い褐色で、同じように下描きや下塗りに適している。
青系と混ぜて、より深く暗い部分の抑え色として用いる。
木の幹などの陰の部分は、黒を使わずに青系との混色を使用するのがコツ。色味が豊かになる。
バーントアンバー+ウルトラマリンディープ

風景画の描き方 その10 白と黒の使い方

色々な絵具を混ぜ合わせていくと、次第に黒くなってきます。
これは絵具で反射される光の波長と量が減少していくためです。
白色とは、可視光線を100%乱反射する物体です。ですから光の吸収体である絵具を混ぜ合わせて白色を
作ることはできません。
白色、灰色、黒色を無彩色といいます。可視光線をほとんど100%乱反射する物体は実際には存在しません
ので、普段我々が白色と呼んでいる色は本当は非常に明るい灰色ということです。
代表的な白はパーマネントホワイトです。
明度を高くする色です。
油絵では白は大量に使用します。そのためほかの絵具より大きいチューブが用意されています。
明るい色を作るためには欠かせないですが、白を混ぜた絵具は彩度が低くなり、鈍い色になるので要注意です。
どんよりした鈍い絵にならないように、画面上には白を混ぜた絵具と混ぜない絵具を両方バランスよく使い
ましょう。
代表的な黒はアイボリーブラックです。
黒は彩度を低くする色です。
透明感を感じさせる黒。絵具に混ぜるときは少なめに混ぜることが大事です。
ブラックを混ぜると色の鮮やかさが抑えられます。混色で自然の色に近づけたいときは、ブラックの代わりに
褐色を使うとよい。

風景画の描き方 その11 季節の描き方

風景画を描く時は季節、時刻、天候、場所によって色使いが異なります。
まず季節です。
色使いを工夫すれば、四季折々の変化に恵まれた風景を情感豊かに描く事ができます。
春の空の場合 セルリアンブルー+ホワイト+クリムソンレーキ
セルリアンブルー+ホワイト+レモンイエロー(少量)
夏の空の場合 セルリアンブルー+ホワイト+ピリジャン(少量)
コバルトブルー+ホワイト+ピリジャン+クリムソンレーキ(少量)
秋の空の場合 セルリアンブルー+ホワイト+レモンイエロー
ホワイト+クリムソンレーキ
冬の空の場合 ブラック+ホワイト+コバルトブルー(少量)
ウルトラマリンディープ+ブラック+ホワイト
春の木々(若葉の黄緑) レモンイエロー+パーマネントグリーンペール
レモンイエロー+パーマネントグリーンペール+ピリジャン(カゲの緑)
夏の木々(青葉の青緑) ピリジャン+パーマネントグリーンペール
ウルトタマリンディープ+ピリジャン(カゲの深緑)
秋の木々(赤黄の緑)  パーマネントオレンジ+パーマネントグリーンペール
パーマネントイエローライト+パーマネントグリーンペール
冬の木々(落葉した木々と常緑樹)
ウルトラマリンディープ+バーントアンバー
ピリジャン+パーマネントグリーンペール(少量)+クリムソンレーキ(少量)

風景画の描き方 その12 時刻の移り変わり

情景を描き分ける場合、朝、昼、夕の光と空気の変化を表現しましょう。 早朝 あさもやによって空気がゆらぎ、光が弱くなる。黄色系で柔らかい光を表現する。 空   コバルトブルー+クリムソンレーキ+ホワイト+ウルトラマリンディープ 岩、海 ウルトラマリンディープ+クリムソンレーキ+ホワイト+ブラック(少量) 昼間 太陽が高い所にあるので、水平面が明るく、垂直面は暗くなる。空気が澄んでいるため、明暗のコトラスト の強い表現になる。岩は青と褐色とピリジャンを混色する。 空   セルリアンブルー+レモンイエロー+ホワイト 海   セルリアンブルー+コバルトブルー+ホワイト+ピリジャン+クリムソンレーキ(少量) 夕方 残照が強く、低い位置にある。暖色系の強い光を表す。岩は青と褐色にイエローオーカーを混色 空   パーマネントイエロー+レモンイエロー+バーミリオン+ホワイト 海   パーマネントオレンジ+レモンイエロー+ホワイト

屋外スケッチの注意事項 キャンバスに直接日光があたらない場所を選んで描こう。画面に光が当たると、反射で明るく見えて 絵具の色調がわかりづらくなる。左肩の方から日があたる角度にイーゼルを置くのが理想的。 安定感のある場所で、立って描くか、座って描くかを決め、キャンバスが水平になるように高さを調整 する。

風景画の描き方 その13 天候と場所

風景を描くには晴れが一番と思われがちですが、実は写生に最適な天候は曇りです。 曇りの日に野外で描くと、光の変化が比較的に少なく、長時間制作ができます。 もちろん曇り空を青空に変えて描いてもかまいません。 そこで気をつけたいのは、空を青く塗るだけでは晴天の絵にならないということです。 晴れと曇りの違いを空の青さの程度だけでなく、画面全体の明るさ暗さや色調のコントラストの差で表す のがコツです。 晴れの日はコントラストが強いので空を明るくするだけではダメです。遠景はホワイトを混ぜて遠景の建物 などのシルエットを浮き出させる。はっきり見えるのでブルーを加えてやや立体的に描く。 暗い幹などは幹の奥を明るい色にして、明暗のコントラストを強くする。 曇りの日はコントラストが弱い。空をグレーにするだけではダメです。 遠景の建物などは立体感を付けず、ややあいまいにして、青味も弱くする。 暗い幹なども明暗さを付けないようにする。

場所 折角スケッチにいくのだから、その場所がどこであるかわかる絵にしたいものです。 描きたい場所に見られる特徴や、持ち味を生かした構図を考えて写生するとよい。 又、同じ場所を何度も描くことを推奨します。 同じ場所ではあっても、季節や天候によって全く違った風景に見えます。構図の取り方、彩色の仕方、 質感などが変わりますので、勉強になります。

風景画の描き方 その14 風景画の要素

風景画は空、地面、山、水、木、建物の6つの要素から成り立っています。
描きたいテーマによって、そのテーマを中心に描くのが変わってくるのは当然でしょう。
絵の中の全てのものを均一に描くと、焦点のないごちゃごちゃした感じになてしまいます。
重要なのは上記6つの要素の配役です。
主役は、脇役は、つなぎ役は、と言う風に考えながら配置し、描くのです。
主役は固有色で細部までもしっかり描く。
脇役は主役を引き立たせるために、控えめに描く。
つなぎ役は背景の森とか、草原とか、空と雲とか、流れのある川とか道。主役を引き立たせて
脇役とジョイントする役目である。
風景画を描く場合は画面の中に遠近中という構成を意識して、そのどの部分を主役としてまとめ
上げていくか、極めて重要で、あらかじめ見極めてから制作を行う必要がある。
景色にはそれぞれ、遠近中、どこにポイントをおいて描くかによって出来る絵がある。
風景には様々な要素があります。ただ草花を描くとか、動物だけを描く、といった場合より困難
を感じることが多い。
なぜなら風景とは異なった多くの要素が集まって出来ているからです。
風景の写生は簡単な場所から初め、徐徐に複雑な場所を描く。最初から難しいものに挑戦しても
結局、自分の力不足を感じることになって、モチベーションが下がることになる。
主役、脇役、つなぎ役がはっきり分かる単純な風景から入っていくべきである。
その修練の多さが、やがて複雑な風景でも、何が描きたいか主役は何かが分かる画面構成ができる
ようになる。

風景画の描き方 その15 風景画は中景がポイント

風景画は見えない空間を描く絵です。
遠近感を表現することは風景画の基本です。
そのため、遠近感を効果的に描くためには、ちょっとオーバーなくらいの距離感の演出が必要です。
今までにも何度も出てきた遠近法の遠景、中景、近景と言う言葉、この3つの距離感をしっかり表現
することにより、絵に情感が生まれ、ドラマが生まれ、魅力が生まれるのです。
遠景はタッチを弱くして周囲に溶け込ませ、中景はポイントとなるために描きこみが必要。
近景はタッチも強く置くが、中景ポイントを壊さない程度にすることが大事。そのためにタッチが
大きい場合は色の彩度を抑えるとか、タッチを広くつないでシルエットにするとよい。
中景をしっかり描きこんで、これを基準とします。
その視点から見て、遠景と近景の距離感を強調します。
基準となるものを設けて、前後を調整していくのが遠近感を表現する簡単な方法です。
近景を強調することで遠近感が出てきます。
その対比として中景、遠景と離れていく程、明るく弱くなり遠景は最低限の淡い色とすべきです。
絵の広がり、スケール感が出てきます。
5月の棚田を思い浮かべてください。
実際には、山、里も緑一色ですが、近景、中景、遠景の距離感があります。
それぞれの緑は色相、明度、彩度が変わっています。
遠近感も微妙な色彩の変化、濃度の変化で表現するからこそ絵の表現に広がりが出てくるのです。

風景画の描き方 その16 空気遠近法

空気遠近法とは大気が持つ性質を使用した空間表現法です。
戸外で風景を眺めていると、遠景に向かうほどに対象物は青味がかって見え、又同時に遠景ほど
輪郭線が不明瞭になり、対象物がかすんで見えます。
こうした特質を使用して空気遠近法では遠景にあるものほど形態をぼやかして描いたり、色彩を
より大気の色に近づけるなどして空間の奥行きを表現します。
遠くのものは空気の層の影響を受け、はっきり形が見えないので光やカゲとして色彩で表し、空気に
溶け込むように描く、山の輪郭も遠方の山ほど大気の中に取り込まれるように薄れていくように
表現します。
ルネッサンス期においてレナルド、ダ、ビンチも既にこれを取り入れています。当時遠近技法として
線の消失点への収束や遠くのものほど小さく見せるなど、奥行きを表現する線遠近法がありました。
しかし戸外の情景を描く場合、遠景を平面の画面上で表現する際には線の効果だけでは十分ではなく
色彩の効果が必要であることをレオナルドは認識していました。
ここで初めて空気遠近法という技法が確立されたことになります。
もう1つの遠近法に色彩遠近法があります。
物理的な遠近法と空気遠近法そして色彩遠近法の3つの遠近技法を画家は通常意識しながら作品を
描いていくわけです。
色彩遠近法は要するに、後にあるものは青に、前にあるものは赤か黄にすることで、前にある物体は
自分に近づいてくる。奥ににあるものは遠ざかっていく、という視覚作用を使用した心理的錯覚を
おこさせる現象を使用した画法です。

風景画の描き方 その17 固有色と基調色(1)

描く対象をそのままの色で個々に再現しても、統一感のある画面作りはできません。
固有色とは、リンゴの赤、レモンの黄、ブドウの緑など、それぞれが持っている色を言います。
絵を描く時は、固有色をうまく絵具の色に置き換えて表すのが基本ですが、固有色だけにとらわれた
表現をすると、対象の中のそれぞれが互いに主張し合い、画面が混乱します。
そこで影の色を工夫してみましょう。
固有色表現といっても影色を寒色系と暖色系にするかによって、2種類の表現が可能である。
それによって画面の中に統一感を持たせることができる。
これを画面全体にあてはめると基調色の考え方になる。
風景において色とりどりの固有色を持った家や木々も影色を工夫すると、互いに調和させることが
できる。
基調色は大きく寒色と暖色に分ける。
季節や題材によって、画面全体を支配している基調色は変化してくる。
夏と冬は寒色系、春や秋は暖色系を基調にすると、季節感と同時に統一感が得られる。
海や夏山はブルー系が合い、秋の紅葉は赤系になるだろう。都会の風景をやや無機的に表現したい時
はブルーやグレー系にするとよい。
緑の固有色を持つ山や草原でも、暖色系の色を使うと春らしいほのぼのした雰囲気になり、青味の
寒色系にすると、さわやかな夏の景色となる。
空、地面、山、水、建物、木々などの要素を好きな基調色で描いてみましょう。

風景画の描き方 その18 固有色と基調色(2)

固有色は対象物のそのもの色ですから、そのまま描けばよい。しかし絵として成立させていくには
基調色と言われる、影の色とか統一感を感じる色とかが重要である。
基調色のレッスン方法として、単色(暖色系、寒色系)で画面に描き出しすると、簡単に基調色
を持たせることができます。単色で風景の形や明暗をつけて、画面に統一感を与えましょう。
例えば素朴な建物を描く時、暖色系の茶色(バーントシェンナ)を単色に選び、形や明暗を
大まかにとる。
茶色で陰影をとらえたら、半乾きの内にそれぞれの固有色を入れていく。固有色が茶色に混ざって
全体に落ち着いた色調になってくる。
それぞれの要素を描きこんで完成させる。描き出しの茶色がほかの絵具と混ざって、つなぎの色が
できる。
強い固有色で目立っている場合でも、絵具の色をそのまま使うのではなく、基調色となる寒色、暖色
を混色するとよい。
例えば建物の影を作る時、壁の影に寒色系のコバルトブルー(+ホワイト)を塗る。
樹木の陰に青を混ぜる。コバルトブルー+ピリジャン+パーマネントグリーンペール
建物の影に暖色系の絵具を混ぜてもよい。
壁の影に紫を塗る。クリムソンレーキ+コバルトブルー+ホワイト
樹木の緑の陰にも使う。クリムソンレーキ+ピリジャン+パーマネントグリーンペール

風景画の描き方 その19 風景画の基本 横タッチ縦タッチ

初心者が間違いやすい描き方のタッチ。
川や道をその流れに沿ったタッチで描く、あるいは海岸の岩のある場所で波の形を見て、その通りに描いて
しまった。これは思い込みです。これが折角の絵を台無しにしているのです。
おだやかな川や湖などの水面は水平に保っているので横タッチで描く。
特に岸に近い部分ははっきりした横タッチを使って水平方向を強調する。
海面も広がりを持った水平面なので横タッチで描く。白い波も基本は横タッチ、岩は縦タッチ。
あくまで風景画の基本は横と縦タッチにあります。
自然は地球である広大な大地と海、宇宙の果てまで無限に広がる空から成り立っています。
ですから空間の水平面の広がりを表す横タッチが風景画の最初の基本となります。
縦横ではなく横そして縦です。
ゆるやかに流れる川の水面は、横タッチで描く。セルリアンブルーにホワイトとクリムソンレーキを
混ぜて川の色を表現する。
奥の水面は平筆の側面を使って細いタッチを引く。手前の水面はやや太い平筆で幅の広い横タッチを引く。
画面の奥行きは、遠くの山はホワイトを多めに加えたグレーを使って引込ませる。
手前に山があれば、山はやや黒っぽいグレーを太めの平筆で塗り、色とタッチの幅で遠近との差を感じさせる。
中景の樹木があれば、上から下への縦タッチで描く。イエローオーカーにクリムソンレーキを混ぜて木の色
をつくり、色合い調整はウルトラマリンディープやピリジャンを加えた色で描く。

風景画の描き方 その20 横タッチは明 縦タッチは暗

風景画は大づかみにとらえると、水平面の横タッチと垂直面の縦タッチから成り立っていることが
前項で理解できるでしょう。
水平面である地面は太陽の光を受けて明るい面になります。
空も空間の広がりや空気の流れを表すため横タッチです。
地面を暗い茶色やグレーで描くのは間違い。光があたるので明るくなるはず。
水平面の明るさに対して、垂直面の遠い山や樹木、建物の壁などは暗くなります。
これらの垂直タッチで描くものは立体の物が多いのですが、奥行きのある画面をつくるために色の面
としてとらえてみましょう。
タッチを画面構成で見てみましょう。
横タッチの多い画面は安定感と広がりのある、キャンバスを横にして描くことが多い。
バランスはいいが、安定しすぎて面白みに欠ける。そこでそのような場合はキャンバスを縦にして
描いてみましょう。広い空、広い海の構図となりおもしろい構成です。
縦の画面構成で地球の重力の関係上、樹木や建物などは垂直に立つが、そのために地面についた根や
土台など、なんらかの支えが必要です。その支えは横タッチです。
単独で不安定に見える縦タッチは横タッチを上手に使用して安定感を出しましょう。影や草むらの
横タッチで地面の位置を示したり、地平線を加えるとバランスが良くなります。

風景画の描き方 その21 斜めタッチで立体感を

水平面(明るい 横タッチ)と垂直面(暗い 縦タッチ)で画面構成をしてきましたが、さらに斜め タッチ(明暗)を加えると、具体的な要素の立体感を増すことができます。 山の場合 山の稜線は明と暗とに分かれる。暗部に強い斜めのタッチを置くと、立体感が出る。 例えばウルトラマリンディープとクリムソンレーキを混ぜて暗色を作り、山の斜面に斜めタッチを 入れる。稜線の明暗を示す斜めタッチの角度により、山の険しさが表現できる。 雪渓などがあった場合はそこは光って見えるためタッチは要らない。 岩の場合 岩は光の角度により複雑に明と暗が変化する。その複雑な立体感を横タッチと縦タッチに斜めタッチ を加えることにより表現できる。 岩の硬い感じを出すことが大切である。ナイフを使えばシャープな岩の面を表現できる。 木の場合 広葉樹の場合は溶き油を多めに加えた緑で縦タッチの葉を置いてから斜めの枝と葉を加える。 縦タッチで幹のシルエットをつくる。枝と葉を斜めタッチで描くと、枝の奥行きや広がりが立体的に 表現できる。 針葉樹の場合は幹が垂直なので、始めに縦タッチを強く描いてから、斜めタッチの枝を左右に広げる。 家の場合 屋根は斜めでありながら、水平面と同じように光のあたる明るい面となる。斜めタッチか横タッチで 描く。 屋根瓦は良く見ると並んだ瓦の側面にカゲができる場合と下部にカゲが出来る場合とがある。 側面は斜めタッチで、下部は横タッチでカゲを入れるのがよい。

風景画の描き方 その22 タッチの変化

横タッチと縦タッチで描くときは、基本的には平筆を使用します。 平筆を使用すると、タッチの幅を均一にそろえることができるので、面が塗りやすいのです。 近いものは太い平筆を使い、絵具を厚く強く置きます。遠くのものは、細い平筆で小さい面を置いて 弱めていきます。 一番遠いものは、タッチがあまり見えないように描きます。 タッチの変化 1、筆の太さ  太い、細い 2、筆の種類  硬い、柔らかい         豚毛平筆はタッチが残る、デザイン用平筆はタッチが残らない 3、筆につける絵具の量  多い、少ない              多ければ絵具が盛り上がり、少なければ絵具がかすれる 4、絵具に加える溶き湯の量  多い、少ない

筆使いによるタッチの種類 1、止め描きタッチ   筆のタッチを短く止めるように置いて描く。このタッチで小さな面を描くと、立体感が表現   できる。建物、かたまり状に見える木の葉、岩の面などに使う。 2、引き描きタッチ   筆のタッチを長く引いて描く、明と暗の色を1本の筆に付けて引くと、木の幹などの丸みや   立体感が表現できる。長細いものや、ものの輪郭部分に使う。 3、擦り描きタッチ   画面に筆を擦りつけるように描く。タッチにグラデーションをつけて、筆跡をなるべく残さない   ようにする表現法。広い水面や、遠くのものなどに使う。

風景画の描き方 風景画の画面作り

風景画の画面作りのコツ、醍醐味は除く、加える、移動する、強調する、です。
風景画は場所選びが大変です。いい風景やおもしろい構図が見つかっても、邪魔になる電信棒や建物
などがあって、悩んでしまう場合があります。その場合は邪魔なものを除きましょう。そのまま描く
必要はありません。
逆に構図的に何かが不足している場合があります。木々が少ない、岩が足りない、池が小さいなどなど、
この場合は木々をあるいは岩をバランスよく、描き加えましょう。
せっかく描くのですから、よりよい配置を工夫してください。1つ加えることが、画面に安定感のある
バランスとリズムを感じさせる変化を生み出します。
この一見矛盾するようなバランスと変化を両立させることが、魅力ある画面つくりのコツです。
移動する場合もあります。
せっかく描きたいと思った風景、例えば建物を描きたいのだが、手前に木があって邪魔になっている。
だからといってその木も画面の中に入れたい。
こんなことは写生ではよくあることです。
こんな時はこの邪魔になる木を移動しましょう。どこにどのように移動するかはバランスを考えて
置いてみましょう。画面上の移動は常に考えておくべきポイントです。
但しバランスですが、左右対称は避けましょう、つまらない構図になってしまいます。
変化のあるバランス作りが大切です。
そして強調する。
もう1つの画面構成の表現です。
例えば山の連なりを描いた場合、安定しているが、少々単調でつまらない場合は、背景の山にポイント
を置き、山を大きく強く描き、手前を少し削って、山の迫力を出す。実際とは異なった絵になりますが
それが絵です。

風景画の描き方 その24 仕上げの一筆

画竜(がりょう)点睛を欠く。It lacks finising touches. もっとも重要なところに手を入れて、全体を生き生きとさせること。 ほとんど完成しているが、肝心なところが抜けているために全体がダメになっている。

これがなかなか難しいが仕上げの一筆としては、よく見て描かなくてはならない。 プロの画家はこの勘所を経験により心得ている。 風景の中に細い平筆の横タッチが入る、これによりこの1本の横タッチが広大な空間を演出してくれる。 この横タッチは光としてとらえた方が正しい。 光のタッチで絵が活きる、これが仕上げの一筆、点睛である。 海の絵で水平線を描く時、水平線に近い海面が光を反射して輝いて見える、この横タッチの輝きが絵を 生き生きさせる。 森の奥の細道、これを光を意識して細い横タッチを入れる。これにより森のより深い奥行きを表現できる。 林立する建物の絵。遠景の日向部分が輝いて見える。縦タッチで小さな面を入れる。 山の絵で斜めタッチで輝きを細く入れる。この1本の線が山の険しさや雄大さを表す。 ペンチングナイフの効果 ペンチングナイフで画面に絵具を置くと、面ができます。 大きな面を塗ると、空間や平らな部分が素早く描けます。小さな面を塗ると、面同士がつながって 立体感が生まれます。 仕上げの画法として、こうしたことも覚えておくと、表現方法が広がります。